2026年 | プレスリリース・研究成果
がん転移とリンパ浮腫の根治につながる新発見 ― リンパ節内のリンパ洞・静脈シャント特定がもたらす 薬物動態設計のパラダイムシフト ―
【本学研究者情報】
〇医工学研究科 教授 小玉哲也
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 全身の要所に位置するリンパ節(注1) に、「リンパ液の通り道」(リンパ洞)と静脈がリンパ節の内部で直接つながる「抜け道(シャント)」(注2)が存在することを、マウスモデルを用いて、最新のイメージング技術による解析により、世界で初めて突き止めました。
- 本成果は、手術後の後遺症であるリンパ浮腫(注3)の画期的な治療や、リンパ節に転移したがん細胞が血液に乗って広がるのを防ぐための治療など、医療現場や創薬研究のあり方を大きく変えうる発見です。
【概要】
従来、リンパ管系は末梢から鎖骨下静脈へ至る一方向性の流路のみから構成されると考えられてきました。
東北大学大学院医工学研究科の小玉哲也教授、同大学院歯学研究科のアリウンブヤン・スフバートル助教、杉浦剛教授、および東北医科薬科大学の中村晃教授(現・名誉教授)の共同研究グループは、ヒトに近いリンパ節構造を有する独自に樹立したリンパ節腫大マウスモデルを用いて、リンパ節内においてリンパ液が直接静脈へ流入する新たな解剖学的構造「リンパ洞・静脈シャント」の存在を世界で初めて明らかにしました。本研究では、マイクロCT(注4)を用いた高精細三次元画像解析に加え、色素やナノ粒子をリンパ節内へ直接投与する動態追跡実験、さらに詳細な組織学的解析を組み合わせることで、四肢および頭頸部のリンパ液が流入するリンパ節内に、リンパ洞が静脈へと直接連結するルートが存在することを科学的に実証しました。
この発見は、難治性疾患であるリンパ浮腫の病態解明や、がん転移の新たな経路理解、さらには効率的かつ選択的なリンパ行性薬物送達法(LDDS)(注5)の開発に革新的な進展をもたらすものです。
本成果は、2026年2月4日付で、英国の医学雑誌The Journal of Pathology(電子版)に掲載されました。
図1. リンパ節の中に新しく見つかった「抜け道」を示しています。これは、リンパ液がリンパ洞の中から直接血管へ流れ込むことができる新たな通り道です。通常、リンパ節は体内を流れるリンパ液をろ過し、病原体やがん細胞をせき止める「フィルター」の役割を担っています。しかし、本研究においてマウスの全身22種類のリンパ節を網羅的に解析した結果、約41%にあたる9種類のリンパ節(主に四肢や頭部からのリンパ液が流入する部位)において、このシャント構造が確認されました。
本研究成果は、シャントが一部の特殊なケースではなく、生体内で普遍的な役割を果たしている可能性を示唆しています。リンパ節の内部に存在するこの微細な通路を介して、免疫細胞やがん細胞がリンパ洞から直接血液中へ流入するという新たなメカニズムの解明は、がんの遠隔転移の抑制や、リンパ浮腫における「むくみ」が軽減するメカニズムの理解など、次世代の治療戦略を支える重要な根拠となります。
【用語解説】
注1. リンパ節:
リンパ管の途中に存在する、豆のような形をした免疫器官。全身に数百個存在し、リンパ液に含まれる細菌、ウイルス、がん細胞などをろ過し、免疫反応を惹起する「フィルター」の役割を果たす。
注2. リンパ洞・静脈シャント:
リンパ節の内部で、リンパ液が流れる空間(リンパ洞)と静脈が直接つながっている特殊な合流部位。「シャント」とは「短絡・バイパス」を意味する。従来、リンパ液はリンパ管を通り、最終的に首の付け根(鎖骨下静脈)で初めて血液と合流すると考えられてきたが、本研究によりリンパ節の段階ですでに血液循環への「抜け道」があることが証明された。
注3. リンパ浮腫:
がんの手術(乳がん、子宮がんなど)でリンパ節を切除したり、放射線治療を受けたりすることで、リンパ液の循環が妨げられ、手足などの皮下にリンパ液が溜まって腫れが生じる状態。一度発症すると完治が難しく、重症化すると日常生活に支障をきたすため、早期発見とケアが重要とされる。
注4. マイクロCT:
X線を用いて、マウスのような小さな動物の内部構造を、非常に高い解像度(数マイクロメートル単位)で立体的に観察できる装置。切片を作ることなく、非破壊でリンパ節内の血管構造などを解析することが可能。
注5. リンパ行性薬剤送達法(LDDS: Lymphatic Drug Delivery System):
静脈への注射ではなく、リンパネットワークに直接薬剤を注入して、がんのリンパ節転移などを効率的に治療する手法。本研究で発見されたシャントの存在は、注入した薬剤がどのように全身へ拡散するかを予測する上で極めて重要な知見となる。
【論文情報】
タイトル:Lymphatic topology reveals a novel intranodal lympho-venous shunt
著者: Ariunbuyan Sukhbaatar, Radhika Mishra, Akira Nakamura, Shiro Mori, Tsuyoshi Sugiura, and Tetsuya Kodama*
*責任著者:東北大学大学院医工学研究科 教授 小玉哲也
掲載誌:The Journal of Pathology
DOI:10.1002/path.70032
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医工学研究科
腫瘍医工学分野
教授 小玉哲也(こだま てつや)
TEL: 022-717-7583
Email: kodama*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医工学研究科
総務係
Email: bme-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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