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「エンハンサー・ハイジャック」により駆動される、極めて高リスクなT細胞性急性リンパ性白血病の新たなサブタイプを発見

【本学研究者情報】

〇東北大学大学院医学系研究科
小児病態学分野
教授 菊池敦生
大学院生 戒能明
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 急性リンパ性白血病は、小児期に多く発症する特徴のある血液のがんの一種です。そのうちの1-2割を占めるT細胞性急性リンパ性白血病には10以上の異なる原因で発症するサブタイプが存在しますが、発症機序が未だ解明されていない症例も一部ありました。
  • 本研究では、これまで知られていなかった染色体の異常である、「t(14;16)(q32;q24)転座」を伴うT細胞性急性リンパ性白血病の新しいサブタイプを発見しました。
  • このサブタイプは、平均16.8歳と思春期・若年成人(AYA世代)に偏った分布をしていること、標準的な抗がん剤治療では完治を得られにくい、極めて高リスクなサブタイプであることがわかりました。
  • このサブタイプでは、14番染色体と16番染色体の一部が入れ替わる(転座する)ことで、本来は別の遺伝子を働かせるための領域(エンハンサー)が、がん関連遺伝子の近くへ移動し、異常な活性化を引き起こす「エンハンサー・ハイジャック」とよばれる発症のメカニズムが働いていることを解明しました。
  • 既存の臨床検査ではこのサブタイプの検出が難しいことも分かりました。今後、迅速な検査法の開発や治療法の研究を進めることで、治療成績の改善につながることが期待されます。
  • 本研究成果は、血液学分野の旗艦的な科学雑誌である、米国血液学会の機関誌「Blood」に掲載されました。

【概要】

国立研究開発法人国立がん研究センター(所在地:東京都中央区、理事長:間野博行)研究所 がん進展研究分野の吉田健一 分野長、三村海渡 連携大学院生、戒能明 任意研修生(東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座 小児病態学分野 大学院生)らは、東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座 小児病態学分野(菊池敦生 教授)などとの協力体制のもと、T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)(注1)の新たなサブタイプ(亜型)を発見し、その発症メカニズムを明らかにしました。

T-ALLは、血液のがんの一種です。研究グループは、ゲノム解析技術(全ゲノムシークエンシング(注2)等)を用いて患者さんのがん細胞の遺伝情報を網羅的に調べました。その結果、14番染色体と16番染色体の末端同士が入れ替わる「染色体転座(てんざ)(注3)」という現象が起きている患者さんの一群を見つけました。

この染色体の入れ替わりにより、本来はT細胞の成長に必要な遺伝子(BCL11B)を働かせるための強力なエンハンサー(注4)が、通常は血液細胞では働かないはずの遺伝子(FENDRR、FOXF1、FOXC2)の近くに移動していました。その結果、エンハンサーが乗っ取られ、これらの遺伝子が異常に活性化してしまう「エンハンサー・ハイジャック」(注5)という現象が起きていることを突き止めました。

このT-ALLのサブタイプは既存の臨床検査では同定が難しく診断に至りにくいこと、さらに標準的な抗がん剤治療に抵抗を示し、極めて高リスクであることが明らかになりました。本研究により、これまで原因不明で治療が難しかった症例の一部を、このサブタイプとして正確に診断できる可能性があります。今後情報が集積されることで、本サブタイプの病態解明や新たな治療開発の道が拓かれることが期待されます。

本研究結果は、2026年3月6日(米国時間)に米国血液学会誌「Blood」に掲載されました。

【用語解説】

注1. T細胞性急性リンパ性白血病(T-lineage acute lymphoblastic leukemia=T-ALL)
血液がんの一種。白血球の中でも、ウイルス感染細胞などを攻撃する役割を持つリンパ球の一種である「T細胞」になるはずの未熟な細胞ががん化して無制限に増える病気です。

注2. 全ゲノムシークエンシング(全ゲノム解析技術)
次世代シークエンサーという装置を用いて、ヒトの遺伝情報(ゲノム)を構成する約30億個のDNAの並び順(塩基配列)をすべて読み取る解析手法です。

注3. 染色体転座(せんしょくたいてんざ)
遺伝情報が詰まった「染色体」の一部が切れ、別の染色体にくっついて入れ替わってしまう現象。これにより、遺伝子の並び順が変わってしまい、病気の原因になることがあります。

注4. エンハンサー
ほかの遺伝子領域に働きかけて、その遺伝子の発現を活性化する役割を持つDNA領域のこと。

注5. エンハンサー・ハイジャック
エンハンサーが、染色体の構造変化によって本来の相手とは違う遺伝子の近くに移動し、その遺伝子を異常に活性化させてしまう現象。

【論文情報】

タイトル:BCL11B enhancer hijacking by t(14;16)(q32;q24) translocation defines a novel high- risk subtype of T-ALL
著者: 三村 海渡、戒能 明、越智 陽太郎、張 育瑄、関 正史、竹田 淳恵、片山 紗乙莉、新妻 秀剛、笹原 洋二、溝口 洋子、下村 麻衣子、小山田 亮祐、小野 林太郎、長谷川 大輔、三谷 一樹、窪田 博仁、吉原 哲、平本 展大、大槻 晃史、岡村 容伸、勝岡 史城、木下 賢吾、長谷河 昌孝、大野 麻理奈、前田 紘奈、垣内 伸之、竹内 真衣、佐藤 亜以子、加登 翔太、渡邉 健太郎、片山 琴絵、井元 清哉、白石 友一、康 勝好、末延 聡一、檜山 英三、合山 進、菊池 敦生、小川 誠司、加藤 元博、南谷 泰仁、滝田 順子、吉田 健一
掲載誌:Blood
DOI:10.1182/blood.2025031466

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東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL:022-717-8032
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