2026年 | プレスリリース・研究成果
培養ニューロンによる機械学習で時系列信号生成を実証 ―人工ニューラルネットワークの機能を生体神経回路に実装―
【本学研究者情報】
〇電気通信研究所 准教授 山本英明
ウェブサイト
【発表のポイント】
- これまで人工ニューラルネットワーク(ANN)(注1)で実行されてきた時系列生成タスクを、培養ニューロン(注2)に実装できることを示しました。
- マイクロ流体デバイス(注3)を用いてニューロンの成長を制御し、大脳皮質などで見られる配線構造を再現することで、複雑な時系列信号を生成する機械学習タスクへの応用を可能にしました。
- 本成果は、脳における計算原理の理解を深め、生物に学んだ高効率なAI技術の創出などにつながることが期待されます。
【概要】
人工ニューラルネットワーク(ANN)やスパイキングニューラルネットワーク(SNN)(注4)は、現在のAI技術の基盤となっています。これらは、脳神経回路に着想を得て作られた技術ですが、逆に、ANNやSNNの働きを生体系に実装できれば、脳の情報処理原理に対する理解を一段と深め、さらに生体の仕組みに基づく新しい計算技術の創出にもつながります。
今回、東北大学電気通信研究所の山本英明准教授(同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)兼任)、佐藤茂雄教授、公立はこだて未来大学の香取勇一教授らからなる研究チームは、マイクロ流体デバイスの中で培養した培養ラット大脳皮質ニューロンを、リザバー計算(注5)と呼ばれる機械学習に組み込む実験系を構築しました。その結果、これまでANNやSNNで実現されてきた、時間とともに変化する信号を学習し自律的に生成するタスクを、生体神経回路で再現することに成功しました。これは、近年注目されているオルガノイドを含む培養ニューロンの可能性を拡張する重要な成果です。
本研究成果は、2026年3月12日(米国時間)に米国科学アカデミー紀要PNASのオンライン版で公開されました。
図1. リザバー計算の概念図。リザバー層と出力層を結ぶ結合の重みを学習により最適化することで、所望の信号を出力させる。
【用語解説】
注1. 人工ニューラルネットワーク
脳の神経細胞(ニューロン)の働きを数理モデルとして抽象化した計算手法。多数の計算ユニットを結合し、学習によって結合強度(重み)を調整することで、パターン認識や自然言語処理などを実行する。
注2. 培養ニューロン
実験動物などから採取した神経細胞を体外で育てたもの。適切な環境下では神経突起を伸ばし、互いに結合してネットワークを形成する。本研究ではラット大脳皮質由来の神経細胞を用いた。
注3. マイクロ流体デバイス
フォトリソグラフィなどのマイクロ加工技術を用いて作製された微小流路を有するシリコーン樹脂製の3次元デバイス。培養細胞の配置や成長方向を空間的に制御することができる。本研究では、神経細胞の接着位置や神経突起の成長方向を制御し、モジュール状の回路構造を再現するために用いた。
注4. スパイキングニューラルネットワーク
神経細胞が発する電気信号(スパイク)を明示的に扱う人工ニューラルネットワークの一種。スパイクの発火率に加えて、発火タイミングでも情報を表現できる点が特徴であり、生体神経回路により近いモデルとされる。近年では、低消費電力な脳型ハードウェアを実現する方式としても注目されている。
注5. リザバー計算(リザバーコンピューティング)
機械学習で使用されるリカレントニューラルネットワーク(RNN)の学習を効率化するために、提示されたモデル。RNN内部の重みは固定したまま、出力層の重みのみを最適化して、所望の信号を出力させる。リザバーは必ずしもニューラルネットワークである必要はなく、さまざまな物理系を利用して構築することもできる。それらは一般に、物理リザバー計算と呼ばれる。
【論文情報】
タイトル:Online supervised learning of temporal patterns in biological neural networks under feedback control
著者:Yuki Sono, Hideaki Yamamoto*, Yusei Nishi, Takuma Sumi, Yuya Sato, Ayumi Hirano-Iwata, Yuichi Katori, Shigeo Sato
*責任著者:東北大学電気通信研究所 准教授 山本英明
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences
DOI:10.1073/pnas.2521560123
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学電気通信研究所
准教授 山本英明
TEL: 022-217-6102
Email: hideaki.yamamoto.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学電気通信研究所 総務係
TEL: 022-217-5420
Email: riec-somu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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