2026年 | プレスリリース・研究成果
有望な骨補填材の骨再生力を増強―リン酸八カルシウム/ゼラチン/コラーゲン様ペプチド組成が骨形成を促進―
【本学研究者情報】
〇東北大学 大学院歯学研究科
生体材料理工学分野
教授 鈴木 治
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 整形外科領域で骨補填材(注1)として臨床応用されているリン酸八カルシウム(注2)/ゼラチン(注3)複合体(OCP/Gel)に、コラーゲン様ペプチド(CMP)(注4)を複合化することで骨再生(注5)能を増強させることを見出しました。
- OCP/Gelは、東北大学で開発され、OCPが有する生体材料の特性により、生体吸収性(注6)および新生骨への置換性が確認された材料です。
- 自家骨が示す高い骨再生能獲得を目標として研究を継続して、OCP/Gelの新たな複合組成(OCP/Gel/CMP)による骨形成の促進を明らかとし、その細胞・分子レベルのメカニズムを提案しました。
【概要】
自己修復が困難な骨欠損を治療するために、自家骨に代わる安定供給可能な人工材料が開発されていますが、その適用の拡大には骨再生能の増強が課題とされています。
東北大学大学院歯学研究科(生体材料理工学分野)の濱井瞭講師、土屋香織学術研究員、鈴木治教授、同大医学系研究科(整形外科学分野)の原田健登大学院生、森優講師、金淵龍一助教、相澤俊峰教授らの研究グループは、北海道大学大学院歯学研究院(硬組織微細構造学教室)の長谷川智香准教授、網塚憲生教授と共同で、OCP/Gel/CMPの骨再生がどのように生じているかを研究し、その発現メカニズムを提案しました。
Gelの部位に、コラーゲンよりも小さい分子であるCMPを複合化すると、OCP の存在下でGel表面での骨芽細胞(注7)による骨基質石灰化(注8)が促進され、それにより複合体の骨再生能自体も増大することが明らかとなりました。研究グループは、OCP自体の骨再生能の増大法も並行して研究しており、今回、OCPを混合する材料側(Gel)による骨形成促進が確認でき、OCP/Gel/CMP材料は次世代型骨補填材としての臨床応用が期待されます。
本成果は、2026年3月25日に生体材料科学分野の国際誌Acta Biomaterialiaにオンライン速報版として掲載されました。
図1. OCP/Gel/CMPが骨再生を促進する要約図。(左図)CMP/Gelの分子構造概念図。(中図)培養した間葉系間質細胞(MSC)(注7)が骨芽細胞に分化し、ナノサイズのリン酸カルシウム針状結晶が化学的に析出したGel/CMP上で骨基質の分泌とその石灰化を開始する様子を示す非脱灰標本組織像。(右図)ラット大腿骨の皮質骨貫通欠損へ埋入されたOCP/Gel/CMPが新生骨を形成する様子を示すμCT像。
【用語解説】
注1. 骨補填材
疾病や事故で生じた骨の治療や再生において、骨欠損を補填する材料である。日本では患者自身から採取した正常部位の骨組織(自家骨)や、顆粒状やブロック状、スポンジ状といった形態をもつ人工骨が使用されている。OCPにおいては、形状付与による操作性向上の観点から、これまでにコラーゲン、ゼラチン、アルギン酸、ヒアルロン酸、乳酸-グリコール酸共重合体といった生体吸収性高分子材料との複合化が検討され、その骨補填材としての性質や機能がこれまでに研究されてきた。OCPとコラーゲンの複合体は歯科領域で、OCPとゼラチンの複合体は整形外科領域で、骨補填材として実用化されている。
注2. リン酸八カルシウム (OCP)
化学式はCa8H2(PO4)6・5H2Oと表記され、水溶液中からのHA(注10)形成の前駆体の一つであり、また、骨アパタイト結晶の前駆体とも考えられてきた生体材料である。リン酸オクタカルシウムとも称されている。化学式が示す通り、多量の水を含むため、HAやβ-TCP(注11)と異なり、単一結晶相として焼結できないことから、生体由来高分子、天然由来高分子、合成高分子と組み合わせた複合体の研究が報告されている。β-TCPと同様に生体内吸収性を示す。また、OCPは骨芽細胞など、骨組織に関連するいくつかの細胞を活性化する能力を持つことが報告されている。
注3. ゼラチン(Gel)
コラーゲンの熱変性産物である。コラーゲンは不溶性であるが、ゼラチンは、ある温度以上ではコラーゲンに特徴的な分子鎖の三重らせん構造がほどけた状態であることから、水に溶けやすい。一方で、ゼラチン水溶液をある温度以下で冷却すると、一部の分子鎖がコラーゲンに類似の三重らせん構造を取り、ゲル化する。ゼラチンは、細胞接着性を示すとともに、生体内の酵素によって分解されることから生体吸収性を示し、ゲル化する性質を材料加工に利用することで、組織再生における足場材料としての応用も検討されている。
注4. コラーゲン様ペプチド(collagen mimetic peptide; CMP)
コラーゲン様ペプチド(CMP)は、コラーゲンに特徴的な三重らせん構造を形成するように人工的に設計・合成された分子である。CMPは、天然のコラーゲンよりも小さい分子である。複数のアミノ酸が化学的に結合(ペプチド結合)して連なった鎖状の分子であり、これら分子鎖が3本集まって、三重らせん構造を形成し、さらに線維化したものが生体のコラーゲンである。この鎖状の分子は、Gly-X-Yを基本単位としたアミノ酸配列が繰り返し連なっている。Glyはグリシンであり、XとYには、様々なアミノ酸が配列するが、XにはPro (プロリン)、YにはHyp (ヒドロキシプロリン)が多く存在する。特に、Hypが三重らせん構造の形成に重要な役割をもつ。代表的なコラーゲン様ペプチドの一つに、(Gly-Pro-Hyp)nがあり、基本のアミノ酸配列の繰り返しの数 (n) が大きいほど、三重らせん構造の熱的安定性が高い傾向にある。
注5. 骨再生
疾病や怪我で失われた骨は、その欠損サイズが小さければ自然に骨が再生され元にもどるが、大きな欠損は自己修復できないことが知られている。そのため、自家骨移植や人工材料を補填した骨再生治療が行われている。
注6. 生体吸収性
材料が自身の物理化学的性質や、周囲の細胞が分泌する酵素の作用によって生体内で溶解もしくは分解され、吸収される性質である。OCPは、骨を造る細胞である骨芽細胞の活性化のみならず、骨組織の吸収にかかわる破骨細胞の形成を促進することから、これらの細胞によって、生体内で分解、吸収されるとともに、新しい骨組織に置き換わる性質を示す。
注7. 骨芽細胞・破骨細胞・間葉系間質細胞
骨芽細胞は骨組織の形成を担う細胞、破骨細胞は骨吸収を担う細胞である。間葉系間質細胞は骨芽細胞に分化する。
注8. 骨基質石灰化
骨は、リン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイト(HA)を基本型とする無機質の骨アパタイト結晶とタンパク質の一種であるコラーゲンを主体とする有機質から構成される組織である。骨芽細胞により骨組織がつくられる際、リン酸カルシウムが形成される過程を石灰化という。骨芽細胞は、コラーゲンの線維形成に加え、脂質の膜からなる袋状の粒子である基質小胞を分泌する。基質小胞では、その内部にカルシウムイオンや無機リン酸イオンが流入してリン酸カルシウムが析出し、膜を突き破るように結晶が成長する。この結晶 (石灰化球) の形成過程は基質小胞性石灰化とよばれている。この石灰化球がコラーゲン線維に接触することで、コラーゲンの三重らせんに沿うようにリン酸カルシウムが形成されていく。この過程はコラーゲン性石灰化とよばれている。
【論文情報】
タイトル:Addition of a collagen mimetic peptide to octacalcium phosphate/gelatin composites enhances bone formation by accelerating calcification
著者:Kento Harada, Ryo Hamai, Yu Mori, Tomoka Hasegawa, Ryuichi Kanabuchi, Kaori Tsuchiya, Norio Amizuka, Toshimi Aizawa, and Osamu Suzuki*
*責任著者:東北大学大学院歯学研究科 生体材料理工学分野 教授 鈴木 治
掲載誌:Acta Biomaterialia 2026 in press
DOI:10.1016/j.actbio.2026.03.043
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
生体材料理工学分野
教授 鈴木 治
Email:suzuki-o*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院歯学研究科
広報室
電話:022-717-8260
Email:den-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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