2026年 | プレスリリース・研究成果
PROTAC分子の効率的な改良を可能にする合成手法 ―タンパク質分解医薬の開発を加速―
【本学研究者情報】
〇薬学研究科合成制御化学分野 教授 岩渕好治
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- アトピー性皮膚炎(注1)の治療薬開発を目指し、標的タンパク質(注2)BRD4(注3)を分解する独自のPROTAC(注4)「TKP-5」を開発しました。
- 「1,3-ブタジイン(注5)」という構造をリンカー(注6)に活用することで、完成したPROTACsを土台に、多様なTKP-5類似分子を効率よく合成できる新たな手法を確立しました。
- 本手法は、ノーベル化学賞の受賞でも知られるクリックケミストリー(注7)で合成される医薬分子や材料分子の効率的な改良にも応用可能です。これにより、新しい薬の候補や材料分子の開発を、より効率よく進められると期待されます。
【概要】
PROTACsは、標的タンパク質を分解する新しい創薬手法として注目されていますが、分子構造が大きく複雑であるため、有望な分子を効率よく見いだすことが難しいという課題があります。
東北大学大学院薬学研究科の山越博幸助教、岩渕好治教授らの研究グループは、アトピー性皮膚炎の治療薬開発を目指し、標的タンパク質BRD4を分解するPROTAC「TKP-5」を見出しました。さらに、リンカーに「1,3-ブタジイン」構造を導入した新たな合成手法を開発し、類似分子を効率的に合成することに成功しました。また、類似分子の効果を調べ、コンピュータ解析も活用することで、TKP-5が高い分解効果を示すために重要な構造の特徴を明らかにしました。今後は、本研究で得られた知見を基に分子構造の最適化を進め、より有望な治療薬候補の創出を目指します。また、本手法は他のPROTACsに加え、多成分型機能性分子の設計・最適化にも応用可能であり、創薬研究全体の加速への貢献が期待されます 。
本研究の成果は、2026年3月19日にアメリカ化学会の学術誌 Journal of Medicinal Chemistryに掲載されました。
図1. 一般的なPROTACsと開発したTKP-5のカタチ
【用語解説】
注1. アトピー性皮膚炎
皮膚の乾燥や強いかゆみ、炎症を繰り返す慢性の病気で、世界で2億人以上が罹患しています。完治させる治療法が確立されていないため、症状を抑える治療が中心です。現状の薬では十分な効果を感じられない場合も多いため、より効果的な薬の開発が求められています。
注2. 標的タンパク質
多くの病気は、体の中のタンパク質が本来とは異なる働きをしてしまうことで起こります。薬は、こうした異常な働きをするタンパク質に作用するように作られており、薬が狙って作用する病気の原因となるタンパク質を「標的タンパク質」と呼びます。
注3. BRD4
BRD4(ブロモドメインタンパク質4)は、炎症が起きている部位で通常より多く見られることから、アトピー性皮膚炎の発症に関わるタンパク質と考えられています。炎症に関係するタンパク質が細胞内でどの程度作られるかを調節する役割を持っています。
注4. PROTAC(s)
PROTACs(プロタック。最後に「s」がつく場合は、複数のPROTACをまとめて表しています)は、病気の原因となる標的タンパク質と「分解の目印」をつけるタンパク質の両方に同時に結合できる分子です。この2つに同時に結合することで、標的タンパク質に分解の目印がつき、体内にもともと備わっているタンパク質分解の仕組みによって分解されます。これにより、病気の原因となるタンパク質を体内から取り除くことができます。
注5. 1,3-ブタジイン
4つの炭素原子が三重結合で一直線につながった構造のことです。化学反応によって、この部分の形を変えることで、鎖状の炭化水素やベンゼン環、酸素や窒素を含む環状構造、二つの環がつながった構造、枝分かれした構造など、さまざまな形に作り替えることができます。
注6. リンカー
分子の中で異なる役割をもつ部分同士をつなぐ「つなぎ目」の部分のことです。PROTACsでは、「病気の原因となるタンパク質に結合する部分」と「分解の目印を付けるタンパク質に結合する部分」をつないでいます。リンカーの長さや形によって、これら2つの部分の位置関係が変化し、PROTACsの効果も大きく変わるため、とても重要な部分と考えられています。
注7. クリックケミストリー
2022年のノーベル化学賞の受賞でも知られる、分子同士を確実かつ簡単につなぐ合成手法です。医薬分子や材料分子を作るために広く使われています。代表例として、アルキンを含む分子を使い、環状構造をつくりながら分子同士を結びつける反応がよく知られています。
【論文情報】
タイトル:Alkyne Two-Phase Strategy: Rapid Generation of TK-285-Derived PROTACs as BRD4 Degraders
著者: Hiroyuki Yamakoshi,* Ryo Watanabe, Ryosuke Segawa, Ryosuke Ishihara, Ryo Tachibana, Genki Kudo, Shota Nagasawa, Satoshi Yamanaka, Ayano Ito, Hiroyuki Takeda, Tatsuya Sawasaki, Ryunosuke Yoshino, Takatsugu Hirokawa, Takayuki Doi, Noriyasu Hirasawa, and Yoshiharu Iwabuchi*
*責任著者:東北大学大学院薬学研究科助教 山越博幸、 東北大学大学院薬学研究科教授 岩渕好治
掲載誌:Journal of Medicinal Chemistry
DOI:10.1021/acs.jmedchem.5c03771
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院薬学研究科 合成制御化学分野
教授 岩渕好治
TEL: 022-795-6846
Email: y-iwabuchi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
助教 山越博幸
TEL: 022-795-6847
Email: hiroyuki.yamakoshi.e1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院薬学研究科・薬学部 総務係
TEL: 022-795-6801
Email: ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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