2026年 | プレスリリース・研究成果
スメクチック磁束液晶におけるマグナス力支配型の渦ダイナミクスを実証 ~超伝導を"トポロジカル流体"として捉える新視点~
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 准教授 木俣 基(研究開始時)
【発表のポイント】
- スメクチック磁束液晶で欠陥渦(スメクチック・ディスロケーション渦)のダイナミクスを初観測。
- マグナス力が支配する新しい磁束渦ダイナミクスをホール応答として実証。
- 超伝導をトポロジカル流体として理解する新しい視点を提示。
【概要】
北海道大学大学院理学研究院の延兼啓純助教、同大学大学院理学院の髙橋杏介氏(研究当時)、同大学大学院理学研究院の松永悟明准教授、日本原子力研究開発機構原子力科学研究所先端基礎研究センター(研究開始時:東北大学金属材料研究所)の木俣 基研究副主幹、北海道大学丹田 聡名誉教授らの研究グループは、超伝導*1体中に形成される「スメクチック磁束液晶*2」において、トポロジカル欠陥「スメクチック・ディスロケーション渦*3」の運動を初めて捉え、流体力学的なマグナス力*4が支配する新しい磁束渦ダイナミクスの観測に成功しました。
超伝導体に磁場を加えると、内部には磁束と呼ばれる糸状の量子渦*5が侵入します。通常、この磁束は比較的剛直な線として振る舞い、電流を流すと電磁気学的なローレンツ力*6によって動く「磁束フロー」が生じます。一方、磁束の周囲には超伝導電流が循環しているため、流体中の渦と同様に流体力学的なマグナス力が働く可能性が理論的に指摘されてきましたが、その寄与を実験的に明確に示すことは困難でした。
本研究では、磁束が液晶のように層状に並ぶスメクチック磁束液晶状態において、磁束の再結合によって生成されるトポロジカル欠陥「スメクチック・ディスロケーション渦」がラメラ層*7構造に沿って運動することを見いだしました。この欠陥渦は一次元的なラメラ層に拘束されるため、渦に働くマグナス力の効果が顕著となり、従来のローレンツ力だけでは説明できない特異なホール応答として観測されました。本成果は、超伝導体をトポロジカル欠陥が支配する流体として理解する新しい物理像を提示するとともに、渦ダイナミクスの制御に基づく新しい量子輸送現象の開拓につながることが期待されます。
なお、本研究成果は、2026年3月25日(水)公開のPhysical Review Letters誌に掲載されました。
ローレンツ力駆動による磁束フロー(左)と マグナス力駆動によるスメクチック・ディスロケーション渦のダイナミクス(右)。
【用語解説】
*1 超伝導 ... 物質を低温まで冷やすと、電気抵抗が完全にゼロになる現象。電流がエネルギー損失なく流れるため、省エネルギー低次元電子デバイスや量子コンピュータなどへの応用が期待されている。
*2 スメクチック磁束液晶 ... 磁束が層状に並び、液晶のような秩序を示す状態。磁束は完全な結晶のように固定されるのではなく、層に沿って比較的自由に動くことができるため、独特のダイナミクスが現れる。
*3 スメクチック・ディスロケーション渦 ... スメクチック磁束液晶の層構造の欠陥として生じる特別な磁束渦。層のつなぎ目に沿って運動するトポロジカル欠陥であり、本研究ではこの欠陥渦の運動が重要な役割を果たすことが示された。
*4 マグナス力 ... 流体中で回転する渦に働く横向きの力。野球のカーブやサッカーボールの変化球を曲げる力として知られる。超伝導体の磁束にも同様の力が働く可能性が指摘されてきた。
*5 量子渦(磁束) ... 超伝導体に磁場を加えると、磁場は一様には侵入できず、「量子化された磁束の束(磁束量子)」として細い糸状の構造を作る。この磁束の周囲では超伝導電流が渦状に循環しており、「量子渦」とも呼ばれる。磁束が動くと電圧が発生するため、磁束の運動は超伝導体の電気特性を決める重要な要素である。
*6 ローレンツ力 ... 電流と磁場が存在するときに働く電磁気学的な力。超伝導体では、この力によって磁束が動かされることが知られており、磁束フローによる電気抵抗の原因となる。
*7 ラメラ層 ... 層状に規則正しく並んだ構造のこと。液晶の一種であるスメクチック液晶では、分子や
構造体が平行なシート(層)を形成し、何層も積み重なった状態になる。この層構造をラメラ層と呼ぶ。
【論文情報】
タイトル:Magnus-driven Hall transport in a smectic vortex state(スメクチック磁束状態におけるマグナス力駆動のホール輸送)
著者: 延兼啓純1、3、髙橋杏介2(研究当時)、松永悟明1、木俣 基4、5(研究当時)、丹田 聡3、6、7、8(1北海道大学大学院理学研究院、2北海道大学大学院理学院、3北海道大学量子トポロジー理工学教育研究センター、4日本原子力研究開発機構、5東北大学金属材料研究所、6北海道大学大学院工学研究院、7北海道大学電子科学研究所、8北海道大学名誉教授)
掲載誌:Physical Review Letters(物理学の専門誌)
DOI:10.1103/dm7v-jk3b
問い合わせ先
東北大学金属材料研究所情報企画室広報班
TEL: 022-215-2144
Email: press.imr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)

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