2026年 | プレスリリース・研究成果
ナノテラスのナノCT画像からガス拡散を10秒で予測 ―燃料電池の高出力・長寿命化に向けた材料設計最適化へ―
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科応用物理学専攻 准教授 吉留崇
研究室ウェブサイト
〇国際放射光イノベーション・スマート研究センター農業・食品スマートラボ 准教授 高山裕貴
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 3Gev高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)(注1)のナノCT(注2)と機械学習の一つであるマニフォールド学習(注3)を組み合わせ、多孔質構造のCTデータからガス拡散係数を短時間で予測する手法を開発しました。
- 本手法を固体高分子形燃料電池(注4)の触媒層(注5)に適用し、発電性能に関わるガス拡散係数を誤差約5%の精度で予測できることを実証しました。
- 約10秒で予測できるため、多様な試料の性能をその場で比較でき、高出力・長寿命な燃料電池に向けた材料最適化への応用が期待されます。
【概要】
クリーンエネルギーとして実用化が進む固体高分子形燃料電池では、触媒層で酸素や水素が反応することで電気エネルギーが生み出されます。触媒層に形成される複雑な多孔質構造は、反応ガスの通路かつ反応の場であり、発電性能を左右する重要な要素ですが、ナノスケールの微細構造であるため、非破壊観察やガス拡散特性の解析は容易ではありませんでした。
東北大学大学院工学研究科の荒井翔太特任研究員と吉留崇准教授、同大学国際放射光イノベーション・スマート研究センターの高山裕貴准教授は、ナノテラスで開発したX線タイコグラフィ(注6)による非破壊ナノCT観察とマニフォールド学習を用いた解析を組み合わせ、多孔質構造とガス拡散係数の相関関係を構築してガス拡散係数を予測する一連の可視化解析技術を開発しました。本手法を固体高分子形燃料電池の触媒層に応用した結果、ナノCTデータからガス拡散係数を誤差約5%の精度で予測できることを実証しました。また、約10秒で予測が可能であるため、材料の作製条件との対応付けや、高出力・長寿命化に向けた多孔質構造の設計・製法の最適化への応用が期待されます。
本成果は2026年3月26日付けでエネルギーデバイス分野の専門誌Journal of Power Sourcesにオンライン掲載されました。
図1. 本研究で提案する構造と物性の相関関係の構築方法と、それを用いた予測方法。
【用語解説】
注1. NanoTerasu(ナノテラス)
東北大学青葉山新キャンパス内に建設され、2024年4月に運用が開始された最新の放射光施設。レーザーのように波面がそろった「コヒーレント」と呼ばれる性質をもつ高輝度X線を利用できる。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)と一般財団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)を代表機関とし、宮城県、仙台市、東北大学、一般社団法人東北経済連合会などが参画する官民地域パートナーシップにより整備・運営されている。
注2. ナノCT
物体の内部構造を非破壊で可視化する手法。X線などを用いて様々な方向から物体の透過像を撮影し、計算機上で物体内部の構造(断層像)を再構成する。特にナノメートルスケールの高分解能観察ができる手法をナノCTと呼ぶ。CTはComputed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略。
注3. マニフォールド学習
機械学習の一つで、高次元データを低次元に圧縮し、データの構造を捉える手法。データが非線形な構造を持つ場合にも適用できるため、非線形次元削減とも呼ばれる。
注4. 固体高分子形燃料電池
水素と酸素の化学反応により電気エネルギーを生み出す燃料電池の一種。二酸化炭素などの温室効果ガスや大気汚染物質が発生しないため、クリーンエネルギー技術として開発が進められている。100 ℃以下の比較的低温で動作し、小型・軽量であることから、燃料電池自動車や家庭・産業用電源への応用が進んでいる。PEMFCはProton Exchange Membrane Fuel Cellsの略で、Polymer Electrolyte Fuel Cell(PEFC)とも呼ばれる。
注5. 触媒層
固体高分子形燃料電池の電極を構成する層で、水素や酸素の反応が起こる場。数十nmの炭素粒子からなる多孔質炭素構造に、白金などの数nmサイズの触媒粒子が担持され、さらにプロトンを輸送するアイオノマーで被覆された構造を有する。
注6. X線タイコグラフィ
コヒーレント回折イメージング(CDI)と呼ばれるレンズレス顕微イメージング技術の一つ。コヒーレントなX線で試料を照射し、得られる回折パターンから計算機アルゴリズムにより顕微鏡像を再構成する手法である。結像レンズを必要としないため、レンズの加工技術に制限されずにナノメートルスケールでの高分解能観察が可能となる。
【論文情報】
タイトル:Structure-based prediction of gas diffusion property of catalytic layer of proton exchange membrane fuel cells via manifold learning and X-ray ptychographic nano-computed tomography
著者:東北大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 特任研究員 荒井 翔太
同大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター 准教授 高山 裕貴*
同大学大学院工学研究科 応用物理学専攻 准教授 吉留 崇*
*責任著者
掲載誌:Journal of Power Sources
DOI:10.1016/j.jpowsour.2026.239916
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 大学院工学研究科
准教授 吉留 崇
TEL:022-795-7955
Email: takashi.yoshidome.b1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学 国際放射光 イノベーション・スマート研究センター
准教授 高山 裕貴
TEL: 022-757-4187
Email: yuki.takayama.b3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 大学院工学研究科 情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
SRIS戦略室
TEL: 022-217-5139
Email: sris-senryaku*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

![]()
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています