2026年 | プレスリリース・研究成果
酸化物イオン伝導体60年分の実験データを体系化 ― 高信頼データで次世代酸化物イオン伝導体探索を加速 ―
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 教授 熊谷悠
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 固体酸化物形燃料電池、酸素センサー、分離膜などに不可欠な酸化物イオン伝導体について、約60年にわたる文献を精査し、483種類の酸化物を収録した高品質データセットを構築しました。
- 文献中で、異なるアレニウス式(注1)に基づいて算出された伝導度に関して、元論文の図表を手作業で再点検・再プロットすることで、活性化エネルギーや前因子(注2)を統一的に再評価しました。
- 本データベースを用いて解釈可能な回帰モデルを構築し、酸化物イオン移動が主に局所配位環境と静電相互作用に支配されることを示しました。
【概要】
酸化物イオン伝導体は、固体酸化物形燃料電池や酸素センサー等を支える重要材料です。しかし、多様な材料を横断的に比較できる体系的なデータ基盤は十分に整っていませんでした。
東北大学金属材料研究所のJang Seong-Hoon特任助教、清原慎講師、熊谷悠教授、同大学大学院工学研究科の高村仁教授らの研究グループは、過去約60年の実験報告を網羅的に調査し、伝導度の代表的指標である活性化エネルギーと前因子を整理したデータセットを構築しました。
本研究では、84報の実験論文から483種類の酸化物を収録しました。特に、過去文献に散見される誤ったアレニウス式による解析を見直し、原論文の図表からデータ点を再抽出・再計算することで、比較可能性と再現性の高い高信頼データ基盤を実現しました。
さらに、このデータセットを用いて構築した解釈可能な回帰モデルを構築しました。その結果、活性化エネルギーは局所構造環境に、前因子は金属―酸素間のクーロン相互作用に強く依存することを明らかにしました。
本成果は、過去の知見を整理するだけでなく、今後の新材料探索や機械学習ポテンシャルの検証に活用できる基盤を提供するものです。信頼性の高い「AI ready」な実験データの整備により、次世代の酸化物イオン伝導体設計が加速することが期待されます。
本研究成果は、2026年4月1日付でデータ論文誌Scientific Dataに未編集版としてオンライン掲載されました。
図1. 本研究におけるデータセット構築・キュレーションの流れ。文献探索、対象データの選別、アレニウスプロットの再評価という一連の手順を示しています。特に、誤った式の使用に起因する系統誤差を補正するため、元論文の図表からデータ点を再抽出し、活性化エネルギーと前因子を統一的に再計算した点が本研究の重要な特徴です。
【用語解説】
注1. アレニウス式
イオン伝導体では、イオンの移動しやすさが温度に強く依存し、その関係はアレニウス式で表されます。一般に、温度が高いほどイオンは動きやすくなり、イオン伝導度も高くなります。これは、イオンが移動する際に越える必要のあるエネルギー障壁(活性化エネルギー)が存在するためです。また、この式に現れる係数は前因子と呼ばれ、イオンのジャンプ頻度や移動可能な状態数などを反映しています。活性化エネルギーと前因子から、材料中でのイオンの動きやすさを定量的に評価できます。
注2. 前因子
イオン伝導度を算出する式において、活性化エネルギーとは独立した、イオンが隣のサイトへ移動しようとする「試行頻度」を表します。本研究では、この前因子が金属と酸素の間の引き合う静電相互作用に支配されていることを明らかにしました。
【論文情報】
タイトル:Charting the Landscape of Oxygen Ion Conductors: A 60-Year Dataset with Interpretable Regression Models
著者: Seong-Hoon Jang*, Shin Kiyohara, Hitoshi Takamura, Yu Kumagai*
*責任著者:東北大学金属材料研究所 特任助教Seong-Hoon Jang、教授 熊谷 悠
掲載誌:Scientific Data
DOI:10.1038/s41597-026-07100-x
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 金属材料研究所
教授 熊谷 悠
TEL:022-215-2106
Email:yukumagai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 金属材料研究所
情報企画室広報班
TEL:022-215-2144
Email:press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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