2026年 | プレスリリース・研究成果
コイルなしで発振する電子回路を実現 -巨大インダクタンスを分子材料で発見-
【本学研究者情報】
〇大学院理学研究科化学専攻 准教授 高石慎也
研究室ウェブサイト
【概要】
理化学研究所(理研)開拓研究所上野核分光研究室の大島勇吾専任研究員、名古屋大学大学院工学研究科の竹延大志教授、東北大学大学院理学研究科の高石慎也准教授らの共同研究グループは、分子性物質[1]に基づくメモリスタ[2]においてコイルを用いずに発振する電子回路を発見しました。
本研究により、従来はコイル[3]によって実現されてきたインダクター[3]機能を、物質の内部ダイナミクスによって代替できることが示され、コイル不要の発振回路が可能となりました。これにより、低周波回路設計の自由度向上や小型・集積化への応用、さらにはニューロモルフィックデバイス[4]など新しい情報処理技術への展開が期待されます。
今回、共同研究グループは分子性モット絶縁体[5]において電気輸送測定およびインピーダンス分光[6]を行い、メモリスタとしての振る舞いを確認しました。さらに、ヒステリシス応答(ピンチドヒステリシスループ)[7]に起因して10,000~100,000ヘンリー(H)[3]に達する巨大なインダクタンス[3]が発現することを見いだし、この巨大インダクタンスと負性抵抗[8]によりコンデンサーと組み合わせた回路で自励発振(自発的な振動)が生じることを実証しました。
本研究は、科学雑誌『Scientific Reports』オンライン版(5月8日付:日本時間5月8日)に掲載されました。
メモリスタにおいて巨大なインダクタンスが発現し、コイル不要の発振器を実現
【用語解説】
[1] 分子性物質
個々の分子が規則的に並んで結晶を形成し、その分子間の相互作用によって電気伝導や磁性などの性質が現れる物質のこと。通常の金属や半導体が原子のネットワークで構成されるのに対し、分子性物質では分子単位で電子の振る舞いが決まる点が特徴である。このような特性から、強い電子相関や新しい機能性の発現が期待される物質群として研究が進められている。
[2] メモリスタ
電流の履歴に応じて電気抵抗が変化する性質を持つ電子素子。電圧や電流を加えた過去の状態を記憶するように振る舞うため、「記憶(memory)」と「抵抗(resistor)」を組み合わせて名付けられた。通常の抵抗とは異なり、時間とともに応答が変化する非線形な特性を持つことが特徴。この性質から、脳の神経回路を模倣したニューロモルフィックデバイス([4]参照)などへの応用が期待されている。
[3] コイル、インダクター、ヘンリー(H)、インダクタンス
インダクター(コイル)は、入力電流の時間変化に比例した電圧を生じさせる回路素子のことを指し、その比例係数をインダクタンスと呼ぶ。インダクタンスの単位はヘンリー(H)であり、1ヘンリーは1秒間に1アンペアの割合で電流が変化するときに1ボルトの電圧を生じる場合と定義される。通常、この性質はコイルによって実現される。本研究では、このインダクタンスがコイルではなく物質の内部ダイナミクスから発現することが示され、特に10,000~100,000Hに達する巨大な値が観測された。
[4] ニューロモルフィックデバイス
人間の脳の神経回路の仕組みを模倣した電子デバイスのこと。脳では、神経細胞(ニューロン)が電気信号の発火(スパイク)によって情報を処理しており、このような動作を電子回路で再現することが目指されている。ニューロモルフィックデバイスは、従来のコンピュータとは異なり、低消費電力で並列的に情報処理できる点が特徴。本研究で示された発振機能は、このようなスパイク信号の生成に応用できる可能性がある。
[5] モット絶縁体
電子が自由に動けるため本来は金属になると予想されるにもかかわらず、電子同士の強いクーロン斥力により電子の移動が抑えられ、全体として絶縁体となる物質のこと。特に、電子密度が1原子当たり半整数となる場合にこのような状態が現れる。
[6] インピーダンス分光
試料に交流電圧を加え、その応答として流れる電流との関係を周波数ごとに測定することにより、物質の電気的性質を調べる手法。この方法により、抵抗や電気容量、インダクタンスといった回路特性を分離して評価することができる。本研究では、この手法を用いてメモリスタにおける巨大なインダクタンスの発現を明らかにした。
[7] ヒステリシス応答(ピンチドヒステリシスループ)
入力した電圧や電流の履歴によって応答が変化し、同じ条件でも過去の状態に依存して異なる値を取る現象。メモリスタでは、電流と電圧の関係をグラフに描くと、原点で交差する特徴的なループ(ピンチドヒステリシスループ)が現れる。このループはメモリスタの代表的な特徴とされており、電流の履歴を記憶する性質を反映している。本研究では、このヒステリシス応答が巨大インダクタンスの発現に関与していることが示された。
[8] 負性抵抗
電圧を増加させたときに電流が減少するような、通常とは逆の応答を示す現象。一般的な抵抗では電圧を大きくすると電流も増加するが、負性抵抗では特定の条件下でその関係が逆転する。この性質は電子回路において発振や増幅に利用されることがあり、自励発振を引き起こす要因となる。本研究では、メモリスタにおける負性抵抗と巨大インダクタンスの組み合わせにより、コイルを用いない発振が実現された。
【論文情報】
<タイトル>Colossal emergent inductance in a molecular memristor
<著者名>Yugo Oshima, Rei Usami, Tetsuro Moriya, Taishi Takenobu, Shinya Takaishi
<雑誌>Scientific Reports
<DOI>10.1038/s41598-026-48808-5
問い合わせ先
東北大学大学院理学研究科・理学部 広報・アウトリーチ支援室
Tel: 022-795-6708
Email: sci-pr*mail.sci.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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