2026年 | プレスリリース・研究成果
震災映像が「時間差」で引き起こす自律神経の凍りつきと能動的防御反応のパターンを同定-「自覚なき身体的記憶」を心拍変動解析で可視化-
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科 教授 富田博秋
ウェブサイト
【発表のポイント】
- 震災映像の視聴中は、心拍と自律神経活動が抑制される「凍りつき」(注1)が生じ、視聴終了後には一転して交感神経が亢進する「能動的防御反応」(注2)が起こる、時間差を伴う特有の生理反応パターンを明らかにしました。
- 震災直後に放送された広告など、直接的な震災映像にはあたらないものであっても、主観的な不快感の有無とは無関係に特徴的な自律神経反応が引き起こされる「自覚なき身体的記憶」の存在が示唆されました。
- 本成果は、大規模災害や気候変動による災害が増加する現代において、より精神健康に寄り添った公衆衛生上のガイドラインの策定を検討する上で重要な知見となり得ます。
【概要】
日本では大規模災害が発生するたびに、被災地のみならず全国で災害映像が繰り返し放送されます。こうしたメディアを通じた二次的曝露(注3)が精神健康に悪影響を及ぼすことは知られていますが、その基盤となる客観的な生理学的特性についてはほとんど解明されていません。
東北大学大学院医学系研究科の小野千晶研究員、富田博秋教授、および岩手大学人文社会科学部の内田知宏准教授らの研究グループは、東日本大震災で強い揺れを経験したものの、津波による直接の被害は受けていない健康な成人を対象に、「地震」「津波」「震災直後の公共広告」の3種の映像視聴中の心拍数(HR)と心拍変動(HRV)(注4)解析を実施しました。その結果、映像視聴中には心拍数と自律神経活動が抑制される「凍りつき(フリーズ)」が生じ、視聴終了直後には一転して交感神経が亢進する「能動的防御反応」が起こる、時間差を伴う生理反応パターンを特定しました。さらに、震災当時の公共広告などの視覚的に非侵襲的な映像でも、主観的な不快感の有無にかかわらず自律神経が反応しており、無意識下で身体的記憶が想起されていることが示唆されました。
これらの知見は、メディアを通じた震災映像への曝露が心身の防御反応を誘発する「二次的トラウマ」のメカニズム解明に寄与するとともに、災害における放送ガイドラインの策定や、公衆衛生上のメンタルケア戦略を立てる上で重要な手掛かりとなることが期待されます。
本成果は2026年5月11日にFrontiers in Psychiatry誌に掲載されます。
図1. 震災関連映像の視聴中と視聴後の自律神経の変化 映像視聴中には心拍数と自律神経活動が抑制される「凍りつき(フリーズ)」が生じ、視聴終了直後には一転して交感神経が亢進する「能動的防御反応」が起こる。
【用語解説】
注1.凍り付き:身を守るために心拍数や自律神経活動を抑制し、体が動かなくなる防御反応を指します 。本研究では、災害映像の視聴中にこの抑制状態が生じることが確認されました 。なお、これに付随して、脅威を検知した際に周囲の状況を把握しようとする「注意深い不動状態(定位反応)」が生じることも知られています。
注2.能動的防御反応:「戦うか逃げるか(闘争・逃走)反応」とも呼ばれ、危機的状況に遭遇した際に自己を防御するため、アドレナリンを放出し自律神経を活動的な態勢へと移行させる反応です 。本研究では、映像視聴中の一時的な抑制状態(凍りつき)から解放された直後に、一転して心拍数や交感神経活動が急激に高まるという、この反応に類似した現象(リバウンド)を認めました。
注3.二次的曝露:事件や事故、災害などの悲劇的な出来事を直接体験していない人が、メディアやSNS、目撃者の証言などを通じて、その映像や情報に間接的に接することを指します。これにより、直接の当事者と同様の心理的・生理的なストレス反応が生じることがあります。
注4.心拍変動(HRV):心拍の拍動と拍動の間隔(ゆらぎ)の変化のことです 。自律神経(交感神経・副交感神経)の状態を反映する客観的な指標として、ストレス反応や情動状態の評価に広く用いられています。
【論文情報】
タイトル:Autonomic Nervous System Reactions to Secondary Exposure to Disaster-Related Imagery
災害関連映像の二次的曝露に対する自律神経系の反応
著者:小野 千晶、加藤 大延、菊地 淑恵、兪 志前、濱家 由美子、日野 瑞城、冨本 和歩、小松 浩、菊地 紗耶、國井 泰人、内田 知宏、富田 博秋
*責任著者:富田 博秋
掲載誌: Frontiers in Psychiatry
DOI: 10.3389/fpsyt.2026.1738606
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科
精神神経学分野
リエゾン精神医学推進地域連携寄付講座
東北大学病院精神科
東北メディカル・メガバンク機構
災害精神医学分野(兼務)
東北大学災害科学国際研究所
災害精神医学分野(兼務)
教授 富田 博秋(とみた ひろあき)
TEL: 022-717-7262
Email: psy*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

![]()
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています