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プラズマによる窒素固定で月面農業を実現へ ―宇宙での食料自給と植物の健全成長を両立―

【本学研究者情報】

〇大学院工学研究科電子工学専攻 教授 金子俊郎
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • プラズマ技術を用いて空気中の窒素・酸素から反応性物質を生成し、月面農業に利用可能な窒素固定(注1)技術を提案しました。
  • 窒素化合物の一つである五酸化二窒素(N2O5(注2)を利用することで、月レゴリス(注3)模擬土壌(注4)においてイネの生育が大きく向上することを実証しました。
  • N2O5は窒素肥料としての役割に加え、植物免疫力(注5)の活性化や徒長(注6)の抑制にも寄与し、閉鎖環境での食料生産技術として有望であることを示しました。

【概要】

NASA主導のアルテミス計画やJAXAによる月面拠点構想の進展により、月面での長期有人活動を支える食料生産技術の開発が重要な課題となっています。特に、月面土壌(レゴリス)には有機物や窒素肥料がほとんど含まれていないため、現地資源を活用した持続可能な農業技術が求められています。

東北大学大学院工学研究科/スペースクロステック研究センター(SXT)の金子俊郎教授、佐々木渉太准教授、大学院生命科学研究科/SXTの東谷篤志教授らの研究グループは、プラズマ技術を用いて空気から窒素化合物を生成し、特に五酸化二窒素(N2O5)を高効率に合成する技術を開発してきました。また、JAXA宇宙探査イノベーションハブ大熊隼人主任研究開発員とともに本技術の月面農場への適用可能性についての議論を踏まえ、このN2O5を水に溶かしたN2O5溶解水を月レゴリス模擬土壌に適用し、イネの生育への影響を評価しました。その結果、N2O5溶解水は窒素肥料の供給源となるとともに、アルカリ性のレゴリスを中和し、カルシウムやマグネシウムなどの必須ミネラルの溶出を促進すること、有害なアルミニウムイオンの溶出を抑制することが明らかとなりました。また、植物の窒素取り込み関連遺伝子の発現が増加し、生育が大きく向上することが確認されました。さらに、N2O5ガスの噴霧により、植物の免疫応答や成長制御に関わる遺伝子発現も変化することが示されました。本成果は、月面における持続可能な食料生産の実現に向けた重要な基盤技術となるものです。本成果は科学誌npj Microgravityに2026年5月2日付けでEarly Access版として掲載されました。

図1. N2O5溶解水およびN2O5ガスがイネの成長に与える影響

A:月レゴリス模擬土壌で育てたイネの様子。N2O5溶解水を与えた場合、水のみの場合に比べて生育が良好になる。
B, C:N2O5溶解水で育てたイネにさらにN2O5ガスを噴霧すると、草丈の伸びが抑えられる様子(徒長抑制)が確認され、イネの重さや密度の比較からN2O5溶解水とN2O5ガス処理を組み合わせることで、より効率的な成長制御が可能であることが示されている。

【用語解説】

注1. 窒素固定:空気中の窒素ガス(N2)を、植物が利用できる形(硝酸態窒素やアンモニア態窒素など)に変換するプロセス。地球上では微生物がこの役割を担っているが、月にはそのような微生物がほとんどいないため、人工的な窒素固定技術が不可欠である。

注2. 五酸化二窒素(N2O5):低温プラズマを使って空気から生成した窒素化合物。酸素・窒素原子のみから構成される分子であり、無水硝酸とも呼ばれる。水に溶かすと植物の窒素肥料となる硝酸イオンに効率よく変化する。

注3. 月レゴリス:月の表面を覆う砂状の物質。岩石が砕けてできたもので、地球の土壌とは異なり有機物や窒素肥料成分がほとんど含まれていない。

注4. 月レゴリス模擬土壌:月レゴリスに近い成分や性質を持つように人工的に作られた土壌模擬物質。月面環境を模した研究や実験に用いられる。

注5. 植物免疫力:植物が病原菌や害虫などから身を守るための抵抗力。特定の遺伝子を活性化させることで、この防御システムを強化することができる。

注6. 徒長:植物の茎や葉が光を求めて過剰に伸びる現象。月面や宇宙の低重力環境では、重力の影響が小さいため徒長が起こりやすく、作物の収穫量や品質に影響を及ぼす可能性がある。

【論文情報】

タイトル:Plasma nitrogen fixation for future lunar agriculture
著者:Toshiro Kaneko*, Shota Sasaki, Daiki Suzuki, Hayato Ohkuma, Atsushi Higashitani*
*責任著者:東北大学 大学院工学研究科 教授 金子 俊郎
同 大学院生命科学研究科 教授 東谷 篤志
(ともに、同 グリーン未来創造機構 スペースクロステック研究センター 兼務)
掲載誌:npj Microgravity
DOI:10.1038/s41526-026-00602-3

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 大学院工学研究科
同 グリーン未来創造機構 スペースクロステック研究センター
教授 金子 俊郎
Email: kaneko*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 大学院生命科学研究科
同 グリーン未来創造機構 スペースクロステック研究センター
教授 東谷 篤志
Email: atsushi.higashitani.e7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 大学院工学研究科 情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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