2026年 | プレスリリース・研究成果
タンパク質液滴の運命はサイズで決まる ―微細加工技術を用いてアミロイド形成を左右する新たな競合過程を発見―
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 准教授 福山真央
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- タンパク質が細胞内でつくる液滴状の集合体(液滴ともよばれる)が、アミロイド線維(注1)だけでなく、アモルファス凝集体(注2)にも変化することを見いだしました。
- マイクロ流体デバイス(注3)で細胞に近い大きさの微小油中水滴を作り、液滴が小さいほどアミロイド線維の形成が抑えられることを定量的に示しました。
- 液滴の中では、安定なアミロイド線維と、準安定なアモルファス凝集体が競合して形成し、液滴の大きさが最終的な凝集体の種類を左右することを明らかにしました。
- 細胞内のような微小空間で起こるタンパク質凝集の理解を深め、神経変性疾患などに関わる凝集過程を評価する新しい視点を提供する成果です。
【概要】
アルツハイマー病やパーキンソン病などの多くの疾患では、タンパク質が異常に集合することが関わっています。
東北大学を中心とする研究グループは、マイクロ微細加工技術を利用して細胞に近い大きさの微小油中水滴を作製し、タンパク質液滴(注4)からアミロイド線維ができる過程を観察しました。その結果、タンパク質液滴はアミロイド線維だけでなく、別の固体状態であるアモルファス凝集体にも変化し、両者が競合することを明らかにしました。特に、小さい液滴ではアモルファス凝集体が先にできやすく、アミロイド線維の形成が抑えられました。これは、従来の試験管内実験では見えにくかった準安定な凝集状態が、細胞サイズの微小空間では重要な役割を持つことを示しています。
本成果は、タンパク質凝集疾患に対する新しい薬剤評価法や治療戦略の開発につながることが期待されます。また、微小空間におけるタンパク質凝集過程を実験データと数理モデルにより定量的に捉える本研究のアプローチは、より精密な解析に膨大な計算を要しますが、将来的には量子・古典ハイブリッド計算をはじめとする先端計算技術の活用も視野に入れることで、創薬・生命科学分野の新たな解析・評価手法の開発にもつながることが期待されます。
本研究成果は、2026年6月6日付(現地時間)で、学術誌Journal of the American Chemical Society に掲載されました。
なお、本研究成果は、東北大学の福山真央 准教授、梶本真司 准教授、中林孝和 教授、東京科学大学の大橋祐美子 特任講師、田口英樹 教授、火原彰秀 教授、産業技術総合研究所の水野雄太 主任研究員、冨田峻介 研究グループ長、神戸大学の茶谷絵里 教授、大阪大学の中島吉太郎 准教授、筑波大学の白木賢太郎 教授、ケンブリッジ大学のTuomas Knowles教授らの研究チームの共同研究によるものです。
図1. 研究の概要。タンパク質液滴は、安定なアミロイド線維と、準安定なアモルファス凝集体のどちらにも変化します(A)。微小油中水滴に閉じ込めることで、両者の競合を一つ一つ観察できます(B)。
【用語解説】
注1. アミロイド線維:タンパク質が規則正しく並んでできる細長い線維状の凝集体です。多くの神経変性疾患との関連が知られています。
注2. アモルファス凝集体:タンパク質が無秩序に集まってできる固体状の凝集体です。アミロイド線維に比べて構造の規則性が低い状態です。
注3. マイクロ流体デバイス:髪の毛ほどの細い流路を使って、微小な液滴や少量の液体を精密に扱う装置です。
注4. タンパク質液滴:細胞内でタンパク質などの分子が集まり、液滴のような状態をつくったものです。膜を持たない細胞内構造の形成に関わります。
【論文情報】
タイトル:Size of Biomolecular Condensates Dictates Fate in Liquid-Solid Phase Transitions through Amorphous-Amyloid Competition
著者:Junka Kawakami, Taiki Ozawa, Yoko Maruyama, Honoka Ishikawa, Yuto Oshita, Kota Yamauchi, Koichi Kobayashi, Shinji Kajimoto, Takakazu Nakabayashi, Shunsuke Tomita, Tanushree Agarwal, Tomas Sneideris, Kichitaro Nakajima, Kentaro Shiraki, Hideki Taguchi, Akihide Hibara, Tuomas Knowles, Eri Chatani, Yuta Mizuno*, Yumiko Ohhashi*, Mao Fukuyama*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 福山真央、東京科学大学総合研究院細胞制御工学研究センター 特任講師 大橋祐美子、産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター 主任研究員 水野雄太
掲載誌:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.6c02816
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 福山 真央(ふくやま まお)
Email:maofukuyama*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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