2026年 | プレスリリース・研究成果
シリコンチップ上に直接作製できる「ナノコンポジット磁性ガーネット材料」を開発 ―よりシンプルで高性能な集積型光アイソレーターを実証、 AI時代の高速・安定な光通信へ貢献―
【本学研究者情報】
〇電気通信研究所 准教授 後藤太一
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- シリコン基板上に直接成膜できる磁気光学材料(注1)「ナノコンポジット磁性ガーネット膜」(注2)を作製しました。直径約10nmの酸化セリウム(CeO₂)ナノ粒子がCe:YIG(注3)の単結晶状の母相中に分散した、報告例のない構造です。
- アモルファス膜(注4)をゆっくり昇温することで、過剰なセリウムがCeO₂として自発的に析出してCe:YIG母相の結晶性が向上し、磁気光学の性能指数(注5)が従来の多結晶Ce:YIG膜の約4倍(510°/dB)に達しました。
- 本材料を非対称マッハ・ツェンダー干渉計(注6)に実装し、シリコンチップ上にモノリシック集積された光アイソレーター(注7)を実証しました。シードレイヤー(接着層)を用いない単純な構造で、従来の集積型アイソレーターに匹敵する性能を達成しています。
【概要】
AIの急速な普及によりデータセンターの消費電力増大が深刻な問題となっています。光信号で情報を伝送するシリコンフォトニクスが次世代技術として注目され、その心臓部となる光部品の鍵を握るのが磁気光学材料「磁性ガーネット」です。しかし最高性能の単結晶膜はシリコン基板上に直接成長できず貼り合わせ工程が必要で、直接成膜できる多結晶膜は性能が劣るため、この性能と集積性のトレードオフは30年来の難問でした。
そこで東北大学と京セラ株式会社による共同研究グループは、独自の「緩昇温結晶化プロセス」により、シリコン基板上に直接成膜できる新材料「ナノコンポジット磁性ガーネット膜」を作製しました。本材料は磁気光学の性能指数で従来の多結晶Ce:YIG膜の4倍を達成し、これを用いた集積型光アイソレーターもシリコンチップ上に実証しています。実用化に向けての大きな壁を乗り越えたと言えます。
本成果は2026年6月12日(現地時間)、米国化学会発行の学術誌ACS Applied Optical Materialsに掲載されました。論文はACS Editors' Choiceに選ばれ、オープンアクセスで公開されています。
図1. ナノコンポジット磁性ガーネット膜の電子顕微鏡像 (a)高角度散乱暗視野走査型透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)による断面像。粒の内部には、直径約10 nmの酸化セリウム(CeO₂)ナノ粒子(黒い粒子状の領域)が単結晶状のCe:YIG母相中に均一に分散している。(b)電子線後方散乱回折(EBSD)による表面解析像。直径1〜5 µmの結晶粒から構成された多結晶膜であり、それぞれの粒の結晶方位が異なることを色で表している。本材料は、ナノメートルスケールのナノコンポジット構造と、マイクロメートルスケールの多結晶構造という二階層の特徴をもつ。
【用語解説】
注1. 磁気光学材料:物質が磁化することによって、その中を伝わる光の偏光状態が変化する現象を有する材料。光アイソレーターをはじめ多くの磁気光学部品に応用されている。
注2. ナノコンポジット磁性ガーネット:本研究で作製された、ナノメートルサイズの粒子が磁性ガーネット母相中に分散した複合材料。本研究では、約10 nmの酸化セリウム(CeO₂)ナノ粒子が、セリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG)の単結晶状の母相中に均一に分散した構造を指す。
注3. セリウム置換イットリウム鉄ガーネット(Ce:YIG):イットリウム鉄ガーネット(yttrium iron garnet, YIG)の一部のイットリウムをセリウムで置換した磁性ガーネット。通常のYIGよりも大きな磁気光学効果(ファラデー回転)を示し、光通信波長帯における磁気光学材料として注目されている。
注4. アモルファス状態:原子が規則的に配列せず、結晶構造を持たない無秩序な状態。本研究では、成膜直後の磁性ガーネット薄膜がこの状態にあり、その後の加熱および冷却プロセスによって結晶化される。
注5. 磁気光学の性能指数(figure of merit, FOM):磁気光学材料の優劣を表す指標。ファラデー回転の大きさを光吸収で割った値で定義され、大きいほど低損失で強い磁気光学効果が得られる優れた材料であることを示す。
注6. 非対称マッハ・ツェンダー干渉計(asymmetric Mach-Zehnder interferometer, AMZI):入射した光を2本の経路に分け、再び合流させて干渉させる光回路。2本の経路の長さに意図的な差を設けることで、波長依存性のある光制御を実現する。
注7. 光アイソレーター:光を一方向にのみ通し、逆方向の光を遮断する光部品。レーザー光源への戻り光を防ぎ、光回路の動作を安定化する役割を持つ。
【論文情報】
タイトル:Nanocomposite Garnet-Enabled Monolithically Integrated Magneto-Optical Isolator Using an Asymmetric Mach−Zehnder Interferometer
著者:Tomoya Sugita, Hibiki Miyashita, Reona Motoji, Dan Maeda, Hiroki Yamamoto, Yuki Yoshihara, Kazushi Ishiyama, and Taichi Goto
*責任著者:東北大学電気通信研究所 准教授 後藤太一
掲載誌:ACS Applied Optical Materials
DOI:10.1021/acsaom.6c00176
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 電気通信研究所
准教授 後藤太一
TEL: 022-217-5489
Email: taichi.goto.a6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 電気通信研究所 広報室
TEL: 022-217-5427
Email: riec-kohoshitsu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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