2026年 | プレスリリース・研究成果
老化・慢性疾患・若返りに共通する「死亡リスクを推定する指標」を開発 ―RNA-seqデータから加齢を測定―
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科/大学院医工学研究科 教授 阿部高明
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 寿命介入マウスのRNA-Seqデータとげっ歯類、サル、ヒトを含む11,000以上の公開RNA-seqデータ(注1)(注2)を統合し、老化・寿命・死亡リスクを推定する新指標「トランスクリプトーム時計(tAge)(加齢時計)」(注3)を開発しました。
- 共発現モジュール解析(注4)により、炎症・免疫応答、ミトコンドリア機能、脂質代謝などが加齢に共通する主要機序であることを明らかにしました。
- 血中のCDKN1A、GPNMB、LGALS3蛋白が死亡リスクや疾患リスクと関連し、加齢関連疾患のリスク評価に役立つ可能性が示されました。
【概要】
老化は慢性疾患の主要な危険因子ですが、同年齢でも進行には個人差があり、それを正確に測定する指標が求められてきました。従来のエピジェネティック時計には遺伝子活動や時空間的変化の評価に限界がありました。
東北大学大学院医学系研究科・医工学研究科の阿部高明教授らの研究グループは AMEDムーンショット型研究開発事業「ミトコンドリア先制医療」の国際共同研究先であるBrigham and Women's Hospital / Harvard Medical SchoolのVadim N. Gladyshev教授らとの共同研究により、米国国立老化研究所(NIA)のInterventions Testing Program(ITP)(注5)で検証された20種類の寿命介入マウスRNA-seqデータと、11,000以上の公開トランスクリプトームデータを統合解析し、老化・疾患に伴う分子変化を「死亡リスク」として定量化する多組織トランスクリプトーム時計(tAge)を構築しました。本手法はげっ歯類に加え、ヒトデータや単一細胞データにも応用可能であることが示されました。さらに、26個の発現モジュール解析により老化・慢性疾患では炎症・免疫応答の亢進やミトコンドリア機能低下がみられ、若返りモデルではこれらが逆方向に変化することを明らかにしました。本成果は老化・疾患・若返りを「死亡リスクに関わる分子変化」として評価する新たな手法であり、寿命延長介入の効果を時間的、空間的にリアルタイムに近い形で分子レベルから解析を可能にし、今後、老化関連疾患のリスク評価、治療効果の判定、健康寿命延伸研究への応用が期待されます。本成果は、2026年5月27日(米国東部時間)付で科学誌 Nature にオンライン掲載されました。
図1. 本研究成果の概念図 従来、加齢を評価する方法としてDNAメチル化を用いた「エピジェネティック時計」が開発されてきましたがその多くは暦年齢の推定にとどまり、寿命や死亡リスクに直結する分子変化を臓器横断的に捉える方法は限られていました。 トランスクリプトーム時計(tAge)は、組織、細胞、血液などからRNAを抽出して寿命調整年齢や期待死亡率を予測します。また重み付き遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)により、老化や死亡リスクに関わる遺伝子発現変化を機能的な26のモジュールとして分類し、その分子基盤を表します。
【用語解説】
注1. 公開トランスクリプトームデータ:
過去の研究で取得され公共データベースに登録・公開されているRNA-seqなどの遺伝子発現データ。複数の動物種、組織、年齢条件のデータを統合することで老化に共通する遺伝子発現変化を解析できる。
注2. RNA-seq解析:
細胞や組織中で発現しているRNAを次世代シーケンサーで網羅的に測定し、どの遺伝子がどの程度働いているかを調べる解析手法。老化や疾患、治療介入に伴う遺伝子発現の変化を定量的に評価できる。
注3. トランスクリプトーム時計(tAge):RNA-seqなどで測定した遺伝子発現パターンから、暦年齢、生物学的年齢、寿命調整年齢、死亡リスクなどを推定する数理モデル。
注4. 共発現モジュール:多数の遺伝子のうち発現量が同じ方向に変動しやすい遺伝子群をまとめたもの。機能的に関連する遺伝子が同じモジュールに含まれることが多く、複雑な遺伝子発現変化を解釈しやすくする。
注5. Interventions Testing Program(ITP):米国国立老化研究所(NIA)が主導するマウスを用いた寿命延長候補物質の検証プログラム。複数施設で同じプロトコルにより介入効果を評価する点が特徴。
【論文情報】
タイトル:Transcriptomic Hallmarks of Mortality Reveal Universal and Specific Mechanisms of Aging, Chronic Disease, and Rejuvenation
著者: Alexander Tyshkovskiy*, Daria Kholdina, Maria Davitadze, Adrian Molière, Alibek Moldakozhayev, Yoshiyasu Tongu, Tomoko Kasahara, Dmitrii Glubokov, Alec Eames, Leonid M. Kats, Anastasiya Vladimirova, Kejun Ying, Hanna Liu, Bohan Zhang, Uma Khasanova, Mahdi Moqri, Jeremy M. Van Raamsdonk, David E. Harrison, Randy Strong, Takaaki Abe, Sergey E. Dmitriev, Vadim N. Gladyshev*
*責任著者:Alexander Tyshkovskiy, Vadim N. Gladyshev
掲載誌:Nature
DOI:10.1038/s41586-026-10542-3
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科病態液性制御学分野
東北大学大学院医工学研究科分子病態医工学分野
教授 阿部 高明(あべ たかあき)
Email: takaaki.abe.d1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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