2026年 | プレスリリース・研究成果
ミトコンドリアと小胞体の接触領域が「鉄供給ハブ」として働く ―エネルギー産生を支える新たな鉄供給機構を発見―
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 助教 椎葉一心
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- ミトコンドリアと小胞体の接触領域(MERCs※1)が、ミトコンドリアへ鉄を供給する「鉄供給ハブ」として機能することを発見しました。
- ヘム分解酵素HMOX2※2がヘム由来の鉄をミトコンドリアへ供給し、エネルギー産生を支えることを解明しました。
- ミトコンドリア病、神経変性疾患、鉄代謝異常症などの病態理解や治療法開発への応用が期待されます。
【概要】
学習院大学の柳茂教授、大学院生の大塩聖(研究当時)、東北大学の椎葉一心助教らの研究グループは、東北大学、東京薬科大学、東京都健康長寿医療センターとの共同研究により、ミトコンドリアと小胞体の接触領域(MERCs)がミトコンドリアへの鉄供給を担う新たな仕組みを明らかにしました。
鉄は生命維持に必須の元素であり、ミトコンドリアではエネルギー産生に必要な鉄硫黄クラスターやヘム※3の材料として利用されています。しかし、細胞内でどのようにミトコンドリアへ供給されるのかは十分に解明されていませんでした。
本研究では、MERCsにおいて、小胞体に存在するヘム分解酵素HMOX2がヘムから鉄を取り出し、ミトコンドリアへ供給する仕組みを発見しました。また、この過程がミトコンドリアユビキチンリガーゼMITOL※4によって制御されていることを明らかにしました。
本研究により、MERCsがエネルギー産生に必要な鉄をミトコンドリアへ供給する「鉄供給ハブ」として機能することが明らかになりました。
これらの成果は、ミトコンドリア病や鉄代謝異常症をはじめとするミトコンドリア関連疾患の理解を深めるとともに、将来的な治療法開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2026年6月10日付けで細胞生物学分野を代表する国際学術誌「Nature Cell Biology」に掲載されました。また、本論文は編集部により注目研究として選定され、研究内容の意義や背景を広く紹介する招待解説記事(Research Briefing)も併せて掲載予定です。
図1:HMOX2はミトコンドリアと小胞体の接触領域(MERCs画分)にも発現している。(左)MITOL近傍タンパク質の網羅的解析結果を示す。近接標識法(TurboID)により、HMOX2がMITOL近傍に存在する有力な候補タンパク質として同定された。子宮頸がん由来HeLa細胞を用いてMITOL周辺のタンパク質を網羅的に解析した結果、これまで小胞体タンパク質として知られていたHMOX2がMITOL近傍に存在することが明らかとなった。(右)細胞分画とウェスタンブロット法・質量解析によってタンパク質の発現領域を同定した。MITOLは既報通りミトコンドリアとMERCs画分に検出された。これまで小胞体タンパク質として知られるHMOX2が本研究結果からMERCsにも発現するタンパク質であることが示された。
【用語解説】
※1 MERCs(Mitochondria-Endoplasmic Reticulum Contact Sites):
ミトコンドリアと小胞体が10~30 nm程度の距離で接近して形成する接触領域。脂質、カルシウム、鉄などの物質輸送や情報伝達の場として機能し、細胞の恒常性維持に重要な役割を果たす。
※2 HMOX2(ヘムオキシゲナーゼ2):
ヘムを分解して鉄、一酸化炭素、ビリベルジンを生成する酵素。
※3ヘム:
鉄を含む環状化合物で、ヘモグロビンや呼吸鎖複合体などの構成要素として働く。
※4 MITOL(MARCHF5):
ミトコンドリア外膜に存在するE3ユビキチンリガーゼ。ミトコンドリアの分裂・融合などのミトコンドリア動態制御、ミトコンドリア品質管理、およびMERCsの機能制御に関与する。
【論文情報】
タイトル:Mitochondria-ER contacts function as an iron supply hub
著者: Hijiri Oshio, Isshin Shiiba, Naoki Ito, Naozumi Okada, Fuya Yamaguchi, Yuto Ishikawa, Shun Nagashima, Yuuta Fujikawa, Keitaro Umezawa, Yuri Miura, Misaki Shimizu, Yoshiro Saito, Tomoyuki Yamaguchi, Ryoko Inatome, Shigeru Yanagi
掲載誌:Nature Cell Biology
DOI:10.1038/s41556-026-01974-0
問い合わせ先
東北大学大学院薬学研究科生体統御システム学分野
助教 椎葉 一心
TEL: 022-795-6837
Email:isshin.shiiba.b6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
東北大学大学院薬学研究科総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)