2026年 | プレスリリース・研究成果
細菌をマイクロ電源とした高効率リチウム回収を実現 ~「電気化学方式に匹敵する効率と速度」と「細菌と材料の自己組織化」で大スケール化を可能に ~
【本学研究者情報】
〇学際科学フロンティア研究所 助教 下川航平
ウェブサイト
【概要】
■従来の課題:電気化学的リチウム回収を阻む「電極の壁」
リチウムは電気自動車や蓄電装置に不可欠な資源で、需要が急速に拡大しています。しかし、リチウム回収法として現在主流の「塩湖蒸発法」は大量の水を消費し、環境負荷が深刻な課題となっています。そこでいま注目されているのが「直接リチウム抽出法(DLE)」、特に、リチウムイオン電池の正極材料を応用した「電気化学的リチウム回収法」です。材料の結晶構造内にリチウムのみを選択的に取り込む高い選択性と速度という利点がある一方、反応は電極の表面で生じるため、実用規模の処理には膨大な電極面積とそこへの電源供給を必要とするといった制約に直面します。そのため、電極という構造体に依存しない、全く新しい反応原理の確立が求められていました。
■成果のポイント:電池材料と微生物が三次元反応場を自己形成
研究チームは、リチウムイオン電池正極材料 λ-MnO2(ラムダ型二酸化マンガン)のナノ粒子と、自然界に広く存在する細菌 Shewanella oneidensis MR-1(シャワネラ・オネイデンシス MR-1)を組み合わせると、両者が自発的にミリメートル規模の凝集体を形成し、微生物が正極材料へ電子を供給する三次元的な「反応場」として機能することを発見しました。これにより、配線も電源供給もなしにリチウムイオンを正極材料の結晶構造内に取り込むことに成功しました(図1)。
微生物が電源(電子供給源)の役割を担うことで、「電源が不要」「低濃度リチウムも回収可能」「広面積電極が不要で省スペース」という利点が生まれます。従来の電気化学的システムに匹敵する速度で、電源を使わない蒸発法やイオン交換法などよりも、処理時間で桁違い(数時間対数日〜数週間)に優れた性能を示します。さらに既存技術と同等の経済性を保ちつつ、水資源消費に伴う環境負荷を低減できる点が本成果の特徴です。
■将来展望:他金属資源・機能性材料合成への展開
本研究は、二次元的な構造の電極を用いた従来の反応とは異なり、材料と微生物が自ら作る三次元の凝集体を反応場として利用するため、原理的に大規模化が可能です。塩湖蒸発法に伴う水資源・環境への大きな負荷を回避しつつ、増大するリチウム需要に応える持続可能な資源確保の選択肢として、本技術の発展が期待されます。
さらに、本原理はリチウム回収だけにとどまりません。異なる電池系のインターカレーション材料はナトリウムやマグネシウムなど他の金属イオンも結晶構造内に取り込むことができるため、本手法を応用することで多様な金属資源の選択的回収や、機能性材料の合成・処理などの材料科学における幅広い応用展開が期待されます。
■その他
- 本研究は、NIMS高分子・バイオ材料研究センター (筑波大学理工情報生命学術院 生命地球科学研究群 教授)岡本 章玄 グループリーダー、東北大学 学際科学フロンティア研究所/金属材料研究所 下川 航平 助教、東京大学 未来ビジョン研究センター(「プラチナ社会」総括寄付講座 兼担)菊池 康紀 教授らの共同研究チームによって行われました。
- 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR19H1)、JSPS科研費(22H02265、20K22460)、NIMS連携拠点制度などの支援を受けて実施されました。
- 本論文の出版にあたっては、東北大学「オープンアクセス推進のための APC 支援事業」からの支援を受けました。
- 本研究成果は、2026年6月29日18時(日本時間)に Nature Communications オンライン版に掲載されました。
図1:左:細菌 MR-1 の細胞内で乳酸が酸化されて発生した電子が、細胞外のλ-MnO2 ナノ粒子へ受け渡され(細胞外電子伝達:EET)リチウムが取り込まれる。中央:続いて、細菌と材料粒子が自発的に集合し、ナノワイヤーで電気的に接続された導電性ネットワークを形成し、さらにリチウムを取り込む反応が活発化する。右:マクロスケールでは、ミリメートルサイズの凝集体が反応容器の底に沈降し、均一なリチウム回収が進行する。
【論文情報】
タイトル: Electrode-Free Bioelectrochemical Intercalation for Scalable Lithium Recovery
著者: Kohei Shimokawa,†* Duyen Minh Pham,† Heng Yi Teah, Xizi Long, Yasunori Kikuchi,* and Akihiro Okamoto*
( † 共同第一著者, * 共同責任著者)
掲載誌:Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-026-74500-3
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所/金属材料研究所
助教 下川 航平(しもかわ こうへい)
Email: kohei.shimokawa.b7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学 学際科学フロンティア研究所
企画部 広報担当
Email: fris-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

![]()
東北大学は持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています