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原子レベルの制御で新たな銅ナノクラスターを開発 ― CO₂変換反応の選択的制御が可能なことを実証 ―

【本学研究者情報】

〇多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 制御が困難なCO₂電解還元反応において、CO₂還元反応の生成物選択性を大きく変化させることに成功しました。
  • 原子レベルで構造が規定された銅ナノクラスター(注1において、銅の価数状態(注2(Cu(I)/Cu(II)比(注3)を精密に制御することに成功しました。
  • わずかな電子状態の変化によって、CO₂電解還元反応(注4の生成物が従来のギ酸(HCOO⁻)主体からメタノール(注5(CH₃OH)主体へと大きく変化することを発見しました。
  • 原子レベルで電子状態を設計することにより、CO₂変換反応を自在に制御できることが可能となることから、カーボンリサイクルや再生可能エネルギー利用技術への展開が期待されます。

【概要】

CO₂電解還元反応は、再生可能電力を利用してCO₂を有用化学品へ変換できる技術として期待されています。しかし、反応中には多数の反応経路が存在し、目的生成物のみを高選択的に得ることは困難です。しかし、触媒上では複数の反応経路が競合するため、目的生成物を選択的に得ることは容易ではありません。

東北大学多元物質科学研究所の根岸雄一教授、Biswas Sourav講師(研究当時)らと、インド工科大学インドール校(IIT Indore)のPathak Biswarup教授らの共同研究グループは、50個の銅原子からなる精密銅ナノクラスターの価数状態を原子レベルで制御し、CO₂還元反応の生成物選択性を大きく変化させることに成功しました。研究グループは、中心に硫化物イオンを内包した新しい銅ナノクラスターS@Cu50 を合成し、その原子構造を単結晶X線構造解析(注7によって解明しました。電気化学測定の結果、従来のCu50クラスターでは主生成物がギ酸であったのに対し、S@Cu50ではギ酸生成が大幅に抑制され、メタノール生成が顕著に促進されることを発見しました(図1)。さらに密度汎関数理論(DFT)計算(注8により、価数状態の変化によって電子構造が変調され、反応中間体(注9の安定化機構が変化することで、CO₂還元反応経路そのものが切り替わることを明らかにしました。

本成果は、原子レベルの価数制御によって触媒反応の選択性を自在に制御できることを示したものであり、次世代CO₂変換触媒の設計指針を与える重要な成果です。

本研究成果は、2026年6月30日公開の学術誌 JACS Auに掲載されました。

図1. 銅ナノクラスターの構造とCO₂電解還元特性の概要。従来のCu50ナノクラスターでは主にギ酸(HCOO⁻)が生成されるのに対し、硫化物イオンを内包したS@Cu50ナノクラスターではメタノール(CH₃OH)生成が促進される。水素原子は見やすさのため省略した。

【用語解説】

注1. ナノクラスター
数個から数百個程度の金属原子が集まった、1ナノメートル前後の極めて小さな粒子。通常のナノ粒子とは異なり、原子数や配列を精密に決定できる場合があり、分子のような離散的な電子状態を示す。

注2. 価数状態
原子が化学結合中でどの程度電子を失っているかを表す状態。本研究では、銅原子が主にCu(I)またはCu(II)として存在しており、その割合の違いがCO₂還元反応の生成物選択性に大きな影響を与えた。

注3. Cu(I)/Cu(II)比
銅原子のうち、一価の銅Cu(I)と二価の銅Cu(II)がどの割合で存在しているかを示す比。本研究では、この比を原子レベルで制御することで、CO₂還元反応の経路をギ酸生成からメタノール生成へと切り替えた。

注4. CO₂電解還元反応
二酸化炭素(CO₂)に電気エネルギーを与え、ギ酸、一酸化炭素、メタノールなどの有用な化学物質へ変換する反応。再生可能電力を用いることで、CO₂を資源として利用する技術として期待されている。

注5. メタノール
化学式CH₃OHで表される最も単純なアルコール。燃料や化学原料として広く利用されており、CO₂から選択的に合成できれば、カーボンリサイクル技術として重要な意味を持つ。

注6. ファラデー効率
電気化学反応において、流した電気量のうち目的生成物の生成に使われた割合を示す指標。値が高いほど、目的物を効率よく生成できていることを意味する。

注7. 単結晶X線構造解析
結晶にX線を照射し、その回折パターンを解析することで、物質中の原子の位置や配列を決定する手法。本研究では、銅ナノクラスターの原子レベルの構造決定に用いた。

注8. 密度汎関数理論(DFT)計算
量子力学に基づいて物質の電子状態や反応過程を計算する理論手法。本研究では、銅ナノクラスター上でCO₂還元反応がどのように進行するかを解析するために用いた。

注9. 反応中間体
化学反応の途中で一時的に生成する化学種。触媒反応では、どの中間体が安定化されるかによって、最終的に生成する物質が大きく変わる。

【論文情報】

タイトル:Atomic-Level Valence-State Engineering Redirects CO₂ Electroreduction on Cu Nanoclusters
著者:李斎林,1 Mandira Ghosh,1 Mohd Rashid,2 Rupa Sarma,1 Pradip Kumar Mondal,3 川脇徳久,1 Sourav Biswas,* 1 Biswarup Pathak,*2 根岸雄一*1(1. 東北大学多元物質科学研究所、2. インド工科大学インドール校、3. イタリア国立シンクロトロン放射光研究所)
*責任著者:東北大学 多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
東北大学 多元物質科学研究所 講師 Sourav Biswas
インド工科大学インドール校 教授 Biswarup Pathak
掲載誌:JACS Au
DOI:10.1021/jacsau.6c00817

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 根岸雄一
TEL: 022-217-5604
Email: yuichi.negishi.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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