2026年 | プレスリリース・研究成果
次世代燃料電池の"発電ロス"の正体に迫る ―プロトン伝導体の水素を「電子の孔」に置き換え、その運動性を観測―
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 教授 髙村仁
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- プロトン伝導体(注1)中のプロトンを排除し、代わりに発電ロスの原因である「電子ホール(注2)」を、プロトンに匹敵する高濃度で導入することに成功しました。
- 6万気圧の高圧酸化(注3)により導入された電子ホールの運動性が、固体NMR分光法(注4)により初めて観測されました。
- 燃料電池の発電ロス抑制やp型酸化物の材料設計につながる成果です。
【概要】
次世代のクリーンエネルギー源として期待される「プロトン伝導性セラミック燃料電池(PCFC)」の電解質材料において、発電効率を低下させる最大の原因である「電子ホール(正孔)」の挙動は謎に包まれていました。それは、電子ホールが材料中にわずかにしか存在せず、主役のプロトンの運動に隠れてしまうためでした。
東北大学大学院工学研究科の高村仁教授らの研究グループは、6万気圧という高圧かつ高濃度酸素の極限環境において、電解質材料内のプロトンを取り除いたうえで、高濃度の電子ホールを導入することに成功しました。これにより、これまで測定が困難であった「PCFC電解質材料中の電子ホールの運動性」が固体NMR(核磁気共鳴)分光法により世界で初めて実験的に観測されました。この成果は、PCFCの発電ロスを抑制する材料設計や、電子ホールが伝導するp型酸化物の新しい材料設計に貢献します。
本研究成果は、2026年7月7日に材料科学分野の国際的な学術誌であるJournal of Materials Chemistry Aに掲載されました。
図1.高圧酸化実験用セル(6万気圧・700 ℃)の模式図とプロトン伝導体(Sc置換BaZrO3)中での電子ホールの描像
【用語解説】
注1. プロトン伝導体:プロトン(H⁺)が結晶中を移動することで電気を運ぶ材料。次世代型燃料電池の固体電解質として注目されている。
注2. 電子ホール(正孔):酸化物中で、酸素から電子が1個抜けてできた「電子の空席」。プラスの電荷をもつように振る舞い、その移動がPCFCのリーク(漏れ電流)の原因となる。
注3. 高圧酸化:数万気圧の高圧と酸素供給源を組み合わせ、常圧では入りにくい量の酸素を結晶に押し込んで酸化させる手法。本研究では約6万気圧(6 GPa)で実施。
注4. 固体NMR(核磁気共鳴)分光法:原子核が磁場中で示す共鳴を利用し、特定原子のごく近傍の状態や動きを原子スケールで調べる手法。本研究では45Scと17Oを観測核に用いた。
【論文情報】
タイトル:Electron holes injected into pure O 2p orbitals of Sc-doped BaZrO3 by high-pressure oxidation
著者:Ryoga Sato, Itaru Oikawa, Akihiro Ishii, Hitoshi Takamura*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 高村 仁
掲載誌:Journal of Materials Chemistry A(英国王立化学会)
DOI:10.1039/d6ta01637e
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
教授 高村 仁
TEL: 022-795-3938
Email: takamura*material.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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