2026年 | プレスリリース・研究成果
乳中脂肪酸組成等から乳用牛のメタン排出量を推定する式を開発
【本学研究者情報】
〇大学院農学研究科 教授 上本吉伸
研究室ウェブサイト
【概要】
ウシのゲップによる消化管内発酵由来メタンの排出は、農業分野における主要な温室効果ガス排出源の一つです。現在、メタン削減の手法の一つとして、ウシの遺伝的改良が世界的に注目されています。
メタン排出量の遺伝的改良には、個体ごとのメタン排出量に関するデータを大規模かつ継続的に収集することが必要です。ウシのゲップによるメタン排出量を正確に測定するには、チャンバー1)などの特別な施設が必要です。また、比較的簡便な評価方法としてスニファー法2)があり、研究機関を中心に普及が進められていますが、いずれも呼気のガス分析を行う必要があります。そのため、全国規模でデータを収集するには、呼気を測定できない農家でも利用可能な推定手法の開発が求められてきました。
そこで、農研機構が代表を務める畜産GHG削減コンソーシアムでは、ウシの消化管内発酵による生成物が乳中脂肪酸組成3)と関係することに着目し、乳中脂肪酸組成を含む乳成分情報からメタンに関する情報を推定する式を開発しました。乳成分情報は、全国の半分以上の酪農家が参加している乳用牛群検定4)で収集されているため、開発した推定式を用いることで、酪農現場においてウシからのメタン排出量を把握することが可能になります。さらに、本成果は、メタン排出量の少ないウシの遺伝的改良に向けて、メタンに関する情報を継続的に収集する基盤となることが期待されます。
本研究成果は、2026年7月10日付で学術誌Animal Science Journalに掲載されました。
図1 算出値と各開発式における推定値のプロット図
灰色の点線は算出値と推定値が一致する部分である。
【用語解説】
1) チャンバー
外気の流入と排気が管理されたチャンバーと呼ばれる部屋にウシを入れ、排出されるメタンを回収し測定する標準的な手法です。メタン排出量を高い精度で測定できますが、施設の建設や運用コストが高いことが欠点です。
2) スニファー法
スニファー法はメタンの測定技術の一つです。ウシから排出される呼気の一部を採取し、呼気中のメタン濃度 (CH4、ppm)、二酸化炭素濃度 (CO2、ppm)を測定します。採取・測定できるのは呼気の一部であるため、この方法単独ではメタン排出量を直接測定することはできません。そのため、本研究では、鈴木ら(Animal Science Journal, 2021, doi:e13637)が報告した以下の推定式を用いて、一日当たりのメタン排出量およびメタン転換効率を算出しています。
一日当たりのメタン排出量(L/日)= - 507 + 0.536×BW + 8.76×ECM + 5,029×CH4/CO2
メタン転換効率(J/100 J)= 2.91 - 0.0498×ECM + 51.0×CH4/CO2
ECM = (AMY × (376×FAT + 209×PRO +948))/3,138
BW:体重(kg)、ECM:エネルギー補正乳量(kg/日)、AMY:乳量(kg/日)、 PRO:乳タンパク質率(%)、FAT:乳タンパク質率(%)
3) 乳中脂肪酸組成
乳脂肪には、炭素数の異なる複数の脂肪酸が含まれています。炭素数が4~14の脂肪酸はデノボ脂肪酸と呼び、主にルーメン内での発酵を経て合成され、粗飼料に由来します。炭素数が15,17,18以上の脂肪酸はプレフォーム脂肪酸と呼び、体脂肪や濃厚飼料に由来します。これらのいずれにも該当しない炭素数16の脂肪酸は、ミックス脂肪酸と呼びます(LIAJ News No.187, 2021)。
4) 乳用牛群検定
牛群検定は、加入している酪農家のウシについて、毎月の乳量や乳成分等の記録を収集・分析し、その結果を酪農家に返すことで、飼養管理、繁殖管理、乳質・衛生管理および遺伝的改良に役立てる事業です。(一社)家畜改良事業団が主体となり実施されています。2025年11月現在で全国の酪農家の52.4%(5,812戸)、経産牛の59.6%(488,643頭)が加入しています。
【論文情報】
タイトル:DPrediction of Enteric Methane-Related Traits From Body Weight and Milk Composition Traits, Including Ratios of De Novo, Mixed, and Preformed Fatty Acids in Holstein Cows
著者: R. Tatebayashi, A. Nishiura, F. Terada, T. Tomaru, T. Obitsu, Y. Uemoto, T.Suzuki, I. Nonaka, Y. Saito, O. Sasaki,
掲載誌:Animal Science Journal
DOI:10.1111/asj.70219
問い合わせ先
(報道に関すること)
東北大学大学院農学研究科広報室
TEL::022-757-4034
Email:agr-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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