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左右対称な物質に現れた「電子の利き手」 ―ウラン化合物で新しい電子秩序を発見―

【本学研究者情報】

〇金属材料研究所 教授 青木大
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 右手と左手のように、鏡に映した像が元の像と重ならない性質「カイラリティ(掌性)」は、医薬品の薬効やハーブの香りの違いなど、身の回りのさまざまな現象に深く関わっています。これまで物質のカイラリティは、原子の並び方(構造)によって生じると考えられてきました。
  • 研究グループでは、結晶構造はカイラリティを持たないにもかかわらず、電子の配列だけがカイラリティを持つ可能性を理論的に提案していました(令和8217日プレス発表)。今回、その新しい電子状態をウラン化合物で発見し、実際の物質中で実現していることを初めて確認しました。
  • 本成果は、「カイラリティは原子配列に由来する」という従来の常識を拡張するものです。電子由来のカイラリティを利用することで、光や電流、磁場による超高速な機能制御が可能となり、新しい光学機能材料やスピントロニクス材料への展開が期待されます。

【概要】

私たちの右手と左手のように、鏡に映した像が元の像と重ならない性質を「カイラリティ(掌性)」[1]と呼びます。右巻き・左巻きのネジやDNAのらせん構造にも見られるこの性質は、医薬品の薬効や香りの違いなど、身の回りのさまざまな現象に深く関わっています。これまで物質におけるカイラリティは、構造そのものが左右非対称であることによってのみ生じると考えられてきました。

一方、日本原子力研究開発機構の強相関アクチノイド科学研究グループは、原子[2]の配列が左右対称でカイラリティを持たなくても、原子に付随する電子の配列によってカイラリティが生じる可能性を理論的に提唱していました。今回、研究チームはウラン化合物[3]「URhSn」に着目し、核磁気共鳴(NMR)法[4]を用いてその詳細な電子状態を調べました。その結果、-219 ℃54 K)以下の低温域において、ウラン原子周りの電子の分布に方向性が生じ、その並び方全体が「右手・左手」のカイラリティを持つことを世界で初めて明らかにしました。

本成果は、「カイラリティは原子配列によって生じる」という従来の常識を拡張する発見です。原子()よりはるかに軽い電子がつくるカイラリティを利用することで、光や電流、磁場による高速な機能制御が可能となり、次世代の光学機能材料やスピントロニクス材料への応用が期待されます。また本研究は、自然界で最大級の電子数を持つウランを含む化合物が、未知の量子現象を創発する「量子マテリアル」[5]として、極めて高いポテンシャルを持つことを改めて実証しました。

本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範) 原子力科学研究所先端基礎研究センター 強相関アクチノイド科学研究グループの徳永陽グループリーダー、石飛尊之博士研究員(現、東北大学大学院理学研究科)、国立大学法人東北大学(総長:冨永悌二)金属材料研究所の清水悠晴助教(現、東京大学物性研究所)、青木大教授らによるものです。

本研究成果は、2026720日(現地時間)に米国物理学会誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。また、編集部が選出する注目論文「Editors' Suggestion」に選出されました。

ウラン化合物で見つかった新しい電子の秩序状態(イメージ)。ウラン原子周りの電子の広がりが方向性を持ち、その配列が全体として「カイラリティ」を持つ(カイラル反強四極子秩序)

【用語解説】

[1]カイラリティ(カイラル、掌性)
右手と左手のように、鏡映しの関係にあるが決して重ならないペアをもち、「左右の区別」がある性質。分子・タンパク質・結晶などさまざまなものがカイラルになる。固体や生命、薬の働きに深く関わり、19世紀半ばから100年以上研究されてきた基本概念。化学・生物分野ではキラリティという。

[2]原子・電子
原子は物質を形づくる最小単位の一つ。1グラムほどの物質中には、1000億×1000億個(約10の22乗個)ほどの原子が含まれる。原子の中心には重い原子核があり、その周りを軽い電子が動き回っている。電子は原子核の1万倍以上軽く、外からの電気や磁場で動きを変えやすい。

[3]ウラン化合物
ウラン元素を含む化合物の総称。ウランに内在する5f電子の強い相互作用により、他の物質群には見られない多様な磁性や超伝導状態が現れる。特異な量子現象の発現機構を理解するための重要な研究対象であり、新奇な量子物性を探索する舞台としても注目されている。

[4]核磁気共鳴(NMR)法
原子核が磁場中で示す共鳴現象を利用した測定手法。物質内部の電子状態や磁性、原子周辺の局所環境を高感度に調べることができ、物性研究や化学分析など幅広い分野で用いられている。医療用MRI(磁気共鳴画像装置)もNMRの原理を応用した技術である。

[5]量子マテリアル
電子の量子力学的性質によって、超伝導やトポロジカル状態など従来にない機能を示す物質群。次世代エレクトロニクスや量子技術への応用が期待されている。

【論文情報】

雑誌名: Physical Review Letters 
タイトル: NMR Evidence for Spontaneous Electronic Chiral Order in URhSn(URhSnにおける自発的電子カイラル秩序のNMRによる解明)
著者: Y. Tokunaga, T. Ishitobi, H. Sakai, S. Kambe, H. Harima, A. Nakamura, A. Maurya, D. Li, Y. Homma, F. Honda, D. Aoki, and Y. Shimizu
DOI: https://doi.org/10.1103/1vjx-4jfv

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問い合わせ先

国立大学法人東北大学金属材料研究所
情報企画室広報班
Mail: press.imr@grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
TEL: 022-215-2144 FAX: 022-215-2482

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