2026年 | プレスリリース・研究成果
炎症のスイッチを入れる新たな仕組みを発見 ―パイリンが関与する過剰な炎症とヒト疾患の背景を明らかに―
【本学研究者情報】
〇生命科学研究科 教授 田口友彦
研究室ウェブサイト
【概要】
炎症は、細菌やウイルスなどの外敵から体を守るために働く重要な防御反応です。しかし、この仕組みの制御機構に生まれつきの異常があると、わずかな刺激でも炎症が過剰に起こってしまう遺伝性自己炎症性疾患が引き起こされます。その代表的な病気に、高熱や激しい腹痛を繰り返す家族性地中海熱(FMF)<1>があります。
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)の本田吉孝 特定助教、同大学院医学研究科 発達小児科学の岩田直也・青木茉莉子 大学院生、同大学院医学研究科エコチル調査(JECS)京都ユニットセンターの八角高裕 特定教授、東北大学大学院生命科学研究科の朽津芳彦 助教・田口友彦 教授、愛知県医療療育総合センター発達障害研究所の永田浩一 副所長(研究当時)、東京薬科大学生命科学部ゲノム情報医科学研究室の土方敦司 准教授、横浜市立大学附属病院難病ゲノム診断科の土田奈緒美 助教、同大学大学院医学研究科遺伝学の松本直通 教授、同大学附属病院遺伝子診療科の宮武聡子 診療教授、同大学附属病院小児科の西村謙一 講師・伊藤秀一 教授、同大学大学院医学研究科生化学の濱田恵輔 助教・緒方一博 名誉教授らを中心とする国際共同研究チームは、原因不明の強い炎症を示す患者さんの遺伝子解析と、大規模ゲノムデータベースの網羅的解析を組み合わせることで、パイリン<2>というタンパク質が炎症を引き起こす"スイッチ"をどのように入れるのか、その新たな仕組みを明らかにしました。研究チームは、パイリンがCDC42<3>という別のタンパク質と作用し合うことで炎症スイッチが入ることを見出しました。さらに、遺伝子変異によってこの作用が異常に強まると、パイリンの働きが過剰に活性化されることで"過剰な炎症"が生じることを示しました。
本研究により、ゲノムデータベースに登録されているものの、これまで病気との関係がはっきりしなかった多数のパイリン遺伝子の変異を、機能に基づいて整理した"アトラス"が整備され、迅速かつ正確な診断や患者さん一人ひとりに合わせた"精密医療(プレシジョン・メディシン)"への応用が期待されます。加えて、CDC42がパイリンの直接の制御因子であることが明らかになったことで、炎症の暴走を抑えるための新たな治療アプローチにつながる可能性も示されました。
本研究成果は、互いに補完し合う2本の論文として、2026年8月7日午後2時米国東部時間(日本時間8月8日午前3時)にScience Immunology誌に掲載されました。
【図の説明】
①Pyrin活性化はCDC42により制御される
自然免疫のセンサーであるPyrinは、病原体の侵入を感知するとCDC42と相互作用し、炎症反応を引き起こす。これにより、生体は病原体に対する防御機構を働かせる。安静時にはPyrinとCDC42の相互作用は弱いが、病原体の侵入時には両者の相互作用が強まり、Pyrinが活性化される。
②正常状態と疾患の比較
(上段)通常、PyrinとCDC42の相互作用は弱い。病原体の侵入に反応してPyrinとCDC42が集合体(クラスター)を形成し、活性化する。
(中段)炎症関連CDC42変異体では、Pyrin-CDC42相互作用が強まりクラスター形成が促進される。
(下段)家族性地中海熱(FMF)関連Pyrin変異体では、PyrinとCDC42との相互作用が強まり、クラスター形成が促進される。
その結果、これらの疾患ではわずかな刺激でも過剰な炎症が引き起こされる。
③Pyrin活性化メカニズム
(左)通常、病原体の侵入を感知したPyrinはCDC42と相互作用し、両者が集合体(クラスター)を形成する。さらに、そのクラスターがインフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体の形成を促し、炎症反応を引き起こす。
(右)FMFや一部のCDC42変異では、PyrinとCDC42の相互作用が病的に強くなる。その結果、病原体の侵入がなくてもPyrin-CDC42クラスターが形成されやすくなり、わずかな刺激でも活性化が起こる状態となる。これにより、過剰な炎症が引き起こされる。
【用語解説】
1.家族性地中海熱(FMF): パイリンをつくるMEFV遺伝子変異により、周期的に発熱や腹膜炎(お腹の内側を覆う膜の炎症)、胸膜炎(肺の表面を覆う膜の炎症)などを繰り返す自己炎症性疾患。日本でも500人程度の患者さんが報告(2009年全国調査)されており、指定難病(266)に分類されている。
2.パイリン(Pyrin): インフラマソームの核となる"センサー"として働くタンパク質。異常を検知すると自らが集まり(=凝集し)、炎症を誘導する司令塔として機能する。
3.CDC42: 細胞の形や動きを制御する因子として知られていたタンパク質。今回の研究で、パイリンと相互作用することで炎症のスイッチを入れる"新たな制御スイッチ"として働くことが明らかになった。
【論文情報】
Aoki, M., Iannuzzo, A., Mertz, P., Feng, S., Iwata, N., Perugini, C., Tsuchida, N., El Masri, R., Kuchitsu, Y., Tacine, B., Coppola, S., Shibata, H., Cescato, M., Nishitani-Isa, M., Terré, A., Kawasaki, Y., Dalmon, S., Nishimura, K., Magnotti, F., ... Delon, J. (2026).
An N-terminal CDC42 T43I variant reveals the mechanism of pyrin inflammasome activation.
Science Immunology.
DOI: 10.1126/sciimmunol.aea0515
Iwata, N., Kuchitsu, Y., Hijikata, A., Shibata, H., Nishitani-Isa, M., Aoki, M., Izawa, K., Yoshitomi, H., Takita, J., Ueno, H., Taguchi, T., Yasumi, T., & Honda, Y. (2026).
A genotype-first approach reveals the molecular basis of pyrin inflammasome activation.
Science Immunology.
DOI: 10.1126/sciimmunol.aea0705
問い合わせ先
東北大学大学院生命科学研究科 広報室
Tel:022-217-6193
E-mail:lifsci-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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