2026年 | プレスリリース・研究成果
準安定固体電解質が急昇温で合成できる謎を解明 ~計算科学と先端測定が解き明かす、準安定相の設計原理~
【本学研究者情報】
〇金属材料研究所 教授 林晃敏
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 本来高温でのみ安定なα-Li₃PS₄が、急昇温により合成・急冷で保持できる理由を解明。
- α相は表面エネルギーが極めて低く、ナノサイズ領域において中温度域で熱力学的に安定化。
- 理論と実験を統合した時間-温度-変態図(TTT図)を構築し、準安定相の理論的創出指針を提示。
【概要】
北海道大学大学院工学研究院の三浦 章教授、藤井雄太助教、忠永清治教授、ミシガン大学材料科学工学科博士課程のベクウヒョン氏、同大学材料科学工学科のスンウェンハオ助教、大阪公立大学大学院工学研究科の森 茂生教授、作田 敦准教授、丁 炯特任研究員、大阪公立大学大学院工学研究科及び東北大学金属材料研究所の林 晃敏教授、東京都立大学理学研究科の水口佳一教授、広島大学大学院先進理工系科学研究科の森吉千佳子教授、高輝度光科学研究センター(JASRI)の河口彰吾主幹研究員らの研究グループは、次世代全固体電池*1の固体電解質*2材料「Li₃PS₄」において、最も高いリチウムイオン伝導度を持つ高温相(α-Li₃PS₄)が、なぜ急昇温プロセスによって合成できるのかという謎を解明しました。
Li₃PS₄のα相は480℃以上の高温でのみ熱力学的に安定であり、室温へ冷却するとイオン伝導度の低いγ相へ相転移してしまいます。しかし近年、ガラスの前駆体を急速加熱(急昇温)することでα相が生成し、さらに室温に急冷保持(クエンチ*3)できることが報告されていました。
研究グループは、第一原理計算*4と、大型放射光施設SPring-8*5のビームラインBL13XUを用いた高時間分解能のin-situ X線回折実験を組み合わせ、急昇温によりナノサイズのα相の優先的な核生成*6が中温度域で引き起こされ、短い保持時間によって結晶成長を抑制することが、準安定なα相を選択的に合成・保持できる理由であることを突き止めました。本成果は、準安定材料を狙って合成するための合理的な材料設計指針を提供するものです。
なお、本研究成果は、2026年8月22日(土)公開のNature Communications誌にオンライン掲載されました。
Li₃PS₄多形*7体の合成経路を描いた時間-温度-変態(TTT)図
【用語解説】
*1 全固体電池 ... 従来の液体電解質の代わりに、固体の電解質を用いた二次電池。可燃性の液漏れリスクがなく安全性が高い。
*2 固体電解質 ... イオン伝導性があるが電子伝導性がない固体のこと。特にLi₃PS₄は、リチウムイオンを運ぶ役割を担う固体電解質の中でもっとも有名なものの一つである。
*3 クエンチ ... 物質を高温状態から急激に冷却することで、高温での構造や状態を保ったまま室温で保持する手法。
*4 第一原理計算 ... 実験データや経験則に頼らず、量子力学の波動関数を計算することで、物質の電子状態やエネルギーをコンピュータ上で正確に予測・計算する手法。
*5 SPring-8 ... 理化学研究所が所有する兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す大型放射光施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8(スプリングエイト)の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。SPring-8では、放射光を用いてナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
*6 核生成 ... 前駆体(アモルファスなど)から新しい結晶相が生まれる最初の過程のこと。
*7 多形 ... 化学組成は同じでも、原子の配列(結晶構造)が異なる結晶。Li₃PS₄にはα相(高温相)、β相(中温相)、γ相(低温相)が存在する。
【論文情報】
論文名 Time-Temperature-Transformation Diagrams to Navigate the Nucleation and Quenchability of Metastable α-Li₃PS₄(準安定α-Li₃PS₄の核生成と急冷性を探るための時間-温度-変態図)
著者名 三浦 章1、Woohyeon Baek2、藤井雄太1、忠永清治1、Rana Hossain1、山下愛智3、水口佳一3、森吉千佳子4、小林慎太郎5、河口彰吾5、丁 炯6、森 茂生6、作田 敦6、林 晃敏6、7、Wenhao Sun2(1北海道大学大学院工学研究院、2ミシガン大学材料科学工学科、3東京都立大学理学研究科、4広島大学大学院先進理工系科学研究科、5高輝度光科学研究センター、6大阪公立大学大学院工学研究科、7東北大学金属材料研究所)
雑誌名 Nature Communications(英国の総合科学誌)
DOI 10.1038/s41467-026-76661-7
公表日 2026年8月22日(土)(オンライン公開)
問い合わせ先
東北大学金属材料研究所情報企画室広報班
TEL 022-215-2144
FAX 022-215-2482
メール press.imr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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