2026年 | プレスリリース・研究成果
水分子の向きが磁気のペアをつくる ―フッ素化ピンサー型錯体における反強磁性ペアの形成―
【本学研究者情報】
〇多元物質科学研究所 准教授 那波和宏
多元物質科学研究所 教授 佐藤卓
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 水素結合でつながったフッ素化ピンサー型銅(II)錯体(注1)において、水分子の向きがそろうことをきっかけに結晶構造が変化することを明らかにしました。
- 構造変化によって銅イオンの鎖に結合交替が生じ、隣接する磁気モーメントが反強磁性的な対を形成することを磁化測定から示しました。
- 密度汎関数理論計算(注2)により水素結合を介した経路が、離れた銅イオン間の磁気相互作用を生み出すのに有力であることを示しました。
【概要】
分子磁性体は、構成する元素や配位子、分子の並び方を化学的に設計することにより、磁気的性質を細かく調整できる材料です。
東北大学多元物質科学研究所の那波和宏准教授、国立台北科技大学のNorman Lu教授および東京大学物性研究所・東北大学多元物質科学研究所の佐藤卓教授の国際共同研究グループは、フッ素化ピンサー型配位子をもつ銅(II)錯体において、水分子の配向秩序化によって反強磁性的な磁気モーメントの対が形成されることを明らかにしました。室温では、錯体分子は水素結合によって一様な鎖を形成しています。しかし温度を下げると、銅イオンに配位した水分子の向きがそろい、隣り合う銅イオン間の結合環境が交互に異なる構造へ変化します。その結果、磁気相互作用にも強弱が生じ、反強磁性的な磁気モーメントの対が形成されることにより説明されました。
本成果は、共有結合で直接つながっていない分子間でも、水素結合と水分子の配向を利用して磁気相互作用を制御できることを示すものです。分子配列やフッ素化の程度を化学的に調整することで、構造と磁性の関係を系統的に研究する新たな分子磁性材料の設計指針につながると期待されます。
本研究成果は、2026年9月11日付けで、無機化学分野の専門誌Inorganic Chemistry に掲載されました。
図1.反強磁性的な磁気モーメントの対が形成される様子を表したイメージ図。赤い矢印はCu²⁺イオンにおける磁気モーメント、橙色の線は水素結合を介した磁気相互作用を模式的に示しています。
【用語解説】
注1. フッ素化ピンサー型銅(II)錯体:中央のピリジン環と両側の官能基が、はさみ(pincer)のようにCu²⁺イオンを取り囲む分子錯体。本研究では側鎖をフッ素化し、分子間相互作用を調整しています。
注2. 密度汎関数理論:電子状態を量子力学に基づいて計算する方法。分子軌道、スピン密度、磁気相互作用の大きさや伝達経路を調べるために用いました。
【論文情報】
タイトル:Formation of antiferromagnetic spin dimer induced by orientation ordering of water molecule in fluorinated pincered Cu(II) complexes
著者:Kazuhiro Nawa*, Dongge Zheng, Katsuki Kinjo, Chun-Wai Tsang, Pin-Xiang Zeng, Gurumallappa Gurumallappa, Norman Lu*, Taku J. Sato
責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 那波 和宏、国立台北科技大学 教授 Norman Lu
掲載誌:Inorganic Chemistry
DOI:10.1021/acs.inorgchem.6c01062
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 那波 和宏(なわ かずひろ)
TEL: 022-217-5350
Email: knawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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