2026年 | プレスリリース・研究成果
わずか30秒でタンパク質バイオマーカーを捉える新原理バイオセンサを開発 ―標識不要・簡素な構造で、在宅健康モニタリングや迅速診断の実現に期待―
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 教授 小野 崇人
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- 標識(蛍光色素や酵素など)を使わず、抗原抗体反応(注1)に伴う電気抵抗の変化からタンパク質バイオマーカー(注2)を直接読み取る新方式のバイオセンサを開発しました。
- 金ナノ粒子(注3)の配合を工夫する(パーコレーション転移(注4)の活用)ことで、高コストな微細加工に頼らず、高い感度を実現しました。
- ストレス応答性タンパク質GDF-15(注5)を対象に、健常成人の生理的濃度域をカバーする約30秒の迅速な測定に成功しました。
- 抗体の変更によりさまざまなタンパク質に応用可能であり、在宅健康モニタリングやポイントオブケア診断(注6)への展開が期待されます。
【概要】
血液や尿に含まれるタンパク質の測定は病気の診断に不可欠ですが、従来の手法(ELISA(注7)等)は専用装置と時間を要するため、家庭や診察現場での即時検査には不向きでした。
東北大学大学院工学研究科の小野崇人教授、大学院医学系研究科および大学院医工学研究科の阿部高明教授らの研究グループは、金ナノ粒子の導電ネットワークを利用し、抗原抗体反応を電気抵抗の変化として捉える、新原理の抵抗変化型バイオセンサを開発しました。本技術により、標識試薬を用いることなく、標的タンパク質(GDF-15)の濃度をわずか約30秒で測定することに成功しました。本センサは極めて簡素な構造で小型化・低コスト化に適しています。これに加え、抗体を取り替えることでさまざまなタンパク質に対応できるため、多種多様な疾患を対象とした在宅健康モニタリングやポイントオブケア診断を実現する強力な基盤技術となることが期待されます。
本研究成果は2026年10月5日付で科学誌Microsystems & Nanoengineeringに掲載されました。
図1. 開発した抗体検出型抵抗変化バイオセンサの概要と動作原理。a. センサ構造の模式図。くし形電極の上に、標的特異抗体と金ナノ粒子を含むバイオレジスタが形成されている。b. 検出の仕組み。金ナノ粒子の体積分率をパーコレーション転移領域に設定することで、局所的な電荷環境のわずかな変化に敏感な導電ネットワークを形成する。c. 抗体による検出。抗原抗体結合に伴う局所的な電荷の変化が金ナノ粒子間のポテンシャル障壁を下げ、電子の輸送を促進する。
【用語解説】
注1. 抗原抗体反応:抗体が、特定の相手(抗原)だけを鍵と鍵穴のように選択的に認識して結合する反応。この高い特異性が、免疫測定法やバイオセンサにおける標的の識別に利用されている。
注2. バイオマーカー:体内の状態や疾患の有無・進行度を反映する指標となる物質。血液や尿に含まれるタンパク質などを測定することで、健康状態や病気の兆候を把握できる。
注3. 金ナノ粒子:直径が数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の金の微粒子。本研究では直径5 nmのものを用いた。樹脂中に分散させると、粒子と粒子の隙間が電子の通り道となる。
注4. パーコレーション転移:導電性の粒子を樹脂などの絶縁体中に少しずつ増やしていったとき、ある割合を境に粒子同士がつながり、全体が急に電気を通すようになる現象。この境目付近では、わずかな構造や電荷の変化が電気抵抗を大きく変えるため、高感度なセンサの動作点として利用できる。
注5. GDF-15:増殖分化因子15。細胞がストレスを受けたときに分泌されるタンパク質で、TGF-βスーパーファミリーに属する。心不全や急性冠症候群の予後予測、ミトコンドリア病の診断などの指標として研究が進んでいる。健常成人の濃度はおよそ200〜1,200 pg/mL(1 pg/mLは1ミリリットルあたり1兆分の1グラム)。
注6. ポイントオブケア診断(POCT:Point of Care Testing):患者のいるその場(診察室、ベッドサイド、自宅、救急現場など)で行われる即時検査のこと。検体を中央検査室や外部機関に送る従来の手法と異なり、採取してすぐにその場で結果が得られるため、迅速な診断や治療方針の決定が可能となる。大型の分析装置を必要としない、小型で簡便な検査デバイスが求められている。
注7. ELISA(エライザ):酵素結合免疫吸着測定法。抗体で標的タンパク質を捕捉し、酵素標識による発色などを光学的に読み取って定量する免疫測定法。高感度で臨床検査に広く普及しているが、多段階の操作と専用装置を必要とする。
【論文情報】
タイトル:Antibody-detecting resistive biosensor for protein biomarkers
著者:Yi-Hsiu Kao, Reo Takahashi, Nguyen Van Toan, Takaaki Abe, Ioana Voiculescu, Takahito Ono*
*責任著者:東北大学大学院工学研究科 機械機能創成専攻 教授 小野崇人
掲載誌:Microsystems & Nanoengineering
DOI:10.1038/s41378-026-01465-0
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科 機械機能創成専攻
教授 小野崇人
TEL: 022-795-5806
Email: takahito.ono.d4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科 情報広報室
担当 沼澤みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)