2026年 | プレスリリース・研究成果
界面に潜んだ重い電子の存在をはじめて実証 ―界面を利用した新たな強相関量子状態の人工設計へ―
【本学研究者情報】
〇国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS) 准教授 湯川龍
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【発表のポイント】
- 「重い電子※1状態」と呼ばれる超伝導などの特異な性質の起源となる電子の状態が、単原子層物質と金属との界面に形成されていることを初めて実証
- 高品質な単原子層薄膜の作製と、放射光を用いた角度分解光電子分光(ARPES)※2による高精度な測定を組み合わせることで直接観測を実現
- 界面構造や電子軌道を精密に制御する新たな物質設計により、特異な超伝導をはじめとする低次元の新しい強相関量子状態の創出への展開に期待
【概要】
大阪大学大学院生命機能研究科 中村拓人 助教(理学研究科兼任)、木村真一 教授(理学研究科兼任、自然科学研究機構分子科学研究所 クロスアポイントメント)、同理学研究科 杉原弘基さん、市川龍さん、山口紘佳さん(研究当時 博士前期課程)、陳奕同さん(研究当時 博士後期課程、現 京都大学大学院人間・環境学研究科 助教)、西原快人さん(博士後期課程)、名古屋大学 未来材料・システム研究所 宮町俊生 准教授、小森文夫 客員教授、東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター 湯川龍 准教授、筑波大学 数理物質系 長谷川友里 助教、量子科学技術研究開発機構(QST) 大坪嘉之 主任研究員、自然科学研究機構分子科学研究所 田中清尚 准教授の研究グループは、単原子層物質と金属との界面に近藤効果※3に由来した重い電子状態が存在することを世界で初めて明らかにしました。
異なる物質の界面に近藤効果に由来する重い電子状態の形成は予測されていましたが、実際にどのように形成されているのかを直接捉えることは困難でした。今回、研究グループは、銅(Cu)単結晶基板上に高品質な単原子層イッテルビウム・銅(YbCu₂)薄膜を作製し、その電子状態をシンクロトロン光※4を用いた角度分解光電子分光(ARPES)によって詳細に調べました。その結果、YbCu₂原子層とCu基板との界面に形成される重い電子状態を観測しました。これにより、YbCu₂原子層のYb 4f電子とCu基板に由来する伝導電子が界面を越えて混成し、重い電子状態を形成していることが実証されました(図1)。
この成果は、原子層と基板の組み合わせによって重い電子状態を人工的に設計し、将来的にはそれに由来する特異な超伝導などの新しい量子現象を創出する可能性を示すものです。今後、界面構造や電子軌道、モアレ構造などを精密に制御することで、低次元系における新たな強相関量子状態の創出につながることが期待されます。
本研究成果は、英国科学雑誌ネイチャー系の国際学術誌「Communications Materials」に、10月6日(火)に公開されました。
図1.YbCu2とCuの間を伝播する界面重い電子の概念図
【用語解説】
※1 重い電子
低温において、固体内の伝導する電子が近藤効果によって局在的な電子(希土類元素では4f電子)と混成することで、みかけの質量(有効質量)が増大する現象。従来のBCS理論に従わない特殊な超伝導などの興味深い現象の起源となる。
※2 角度分解光電子分光(ARPES)
固体表面に光を当てて光電効果によって飛び出てくる電子(光電子)の角度とエネルギーを観測することにより、固体内の電子の運動量と束縛エネルギーを観測する手法。固体における電子の状態を調べる実験方法として近年盛んに用いられている。シンクロトロン光と組み合わせることで、高い精度で観測が行われている。さらに、照射する光のエネルギーを変化させることで、観測された電子状態が原子層内に閉じ込められた二次元的な状態なのか、それとも基板内部まで広がった三次元的な状態なのかを区別することができる。
※3 近藤効果
純粋な金属は、温度を下げていくとその電気抵抗が単調に減少するが、金属中に磁性不純物(鉄やニッケルなど)がごく僅かに存在する場合、ある温度以下で電気抵抗が増加する現象である。この現象は古くから知られていたが、その物理的機構を1964年に 故・近藤淳 博士(2020年 文化勲章)が初めて理論的に解明したことから、この名前が付けられている。
※4 シンクロトロン光
光速近くまで加速された電子の軌道が磁場によって曲げられた時、その接線方向に発生する光のことで、最近は次世代放射光ナノテラスの建設が進んでいることで話題になっている。高い輝度・偏光性・エネルギー可変性などの優れた特徴があり、材料開発などの幅広い分野で活用されている。本研究では、KEK放射光実験施設フォトンファクトリーと分子科学研究所 極端紫外光研究施設UVSOR-IIIを利用した。
【論文情報】
タイトル:Interfacial heavy fermion formation in a two-dimensional Kondo lattice YbCu2 on Cu(111) substrate
著者: Takuto Nakamura, Hiroki Sugihara, Toshio Miyamachi, Yitong Chen, Kaito Nishihara, Ryo Ichikawa, Hiroka Yamaguchi, Ryu Yukawa, Kiyohisa Tanaka, Yuri Hasegawa, Yoshiyuki Ohtsubo, Fumio Komori, Shin-ichi Kimura
掲載誌:Communications Materials
DOI:10.1038/s43246-026-01332-5
問い合わせ先
(報道に関すること)
東北大学 国際放射光イノベーション・スマート研究センター
TEL: 022-752-2331
Email: sris*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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