2026年 | プレスリリース・研究成果
育ての母マウスを替えると、成長後の感覚情報処理が変化 ―出生後早期の母体環境が、仔の脳発達に影響する可能性―
【本学研究者情報】
〇大学院医学系研究科 准教授 前川素子
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【発表のポイント】
- 同じ種類(系統)の仔マウスでも、生後早期に育てる母マウスを替えると、成長後の聴覚性感覚情報処理(PPI)(注1)が変化することを明らかにしました。
- 母マウスの系統によって、生後7日目の母乳に含まれるメチオニン(注2)や葉酸(注3)などの量が異なりました。また、育てる母マウスを替えた仔マウスでは、脳内の関連物質にも変化が認められました。
- 本研究は、出生後早期の母体環境が仔の脳発達に重要な役割を果たす可能性を示唆しています。
【概要】
胎児期から乳幼児期までの環境が将来の健康に影響するというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)仮説(注4)が広く知られています。一方、出生後早期の母体環境が仔の脳発達に及ぼす影響については、これまで十分に理解されていませんでした。
東北大学大学院医学系研究科器官解剖学分野の前川素子准教授らの研究グループは、理化学研究所との共同研究により、マウスでは出生後早期の母体環境が仔の脳発達に影響する可能性があることを明らかにしました。生後まもない仔マウスを異なる系統の母マウスが育てる「交差哺育(cross-fostering)」(注5)を行ったところ、育てる母マウスを替えると、仔マウスの成長後の聴覚性感覚情報処理(Prepulse inhibition:PPI)が変化しました。
さらに、生後7日目の母乳では、DNAメチル化(注6)に影響を与える一炭素代謝(注7)関連物質に系統差が認められました。また、生後15日目の、交差哺育を行った仔マウスの脳では、一炭素代謝関連物質に変化が認められました。
本研究は、出生後早期の母体環境が仔マウスの脳内一炭素代謝や成長後の聴覚性感覚情報処理に影響を及ぼす可能性を示し、出生後早期の母体環境が脳発達に重要な役割を果たす可能性を示唆しています(図1)。
本研究成果は、2026年9月19日付で、行動神経科学・生理学分野の国際学術誌 Physiology & Behavior にオンライン公開されました。
図1. 本研究の概要 出生後2日目に仔マウスを別の母マウスへ移す「交差哺育」を行い、出生後早期の母体環境の影響を解析しました。母乳および仔マウス脳内の代謝物を発達段階ごとに測定するとともに、生後6週齢で感覚情報処理(PPI)などの行動試験を行いました。
【用語解説】
注1. 聴覚性感覚情報処理(PPI):大きな音の直前に小さな音を聞かせると、その後の驚き反応(びっくり反応)が弱くなる現象。脳が周囲のさまざまな刺激の中から必要な情報を選び、不要な刺激の影響を抑える働きの指標として広く用いられる。
注2. メチオニン:食品中に含まれる必須アミノ酸の一つ。一炭素代謝を介してDNAメチル化に必要なメチル基の供給源となり、脳の発達にも重要な役割を果たす。
注3. 葉酸:ビタミンB群の一種で、一炭素代謝に必要な栄養素。DNAメチル化に必要なメチル基の生成に関わり、胎児や乳幼児の正常な発育・発達に重要な役割を果たすことが知られている。
注4. Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)仮説:胎児期から乳幼児期までの発育環境が、将来の健康や病気のなりやすさに長期的な影響を及ぼすという考え方。近年では、生活習慣病だけでなく、脳の発達や精神・神経疾患との関連についても研究が進められている。
注5. 交差哺育(cross-fostering):生後まもない仔マウスを、実の母親ではなく別の母親マウスに育ててもらう実験手法。出生後の母体環境(母乳や養育環境など)が仔の発達に及ぼす影響を調べるために用いられる。
注6. DNAメチル化:DNAにメチル基と呼ばれる化学物質が付くことで、遺伝子の働きを調節する仕組み。DNAの配列を変えることなく遺伝子の発現を制御する「エピジェネティック制御」の代表的な仕組みであり、一炭素代謝で作られるメチル基が利用されている。
注7. 一炭素代謝:メチオニンや葉酸などの栄養成分を利用して、DNAメチル化などに必要なメチル基を供給する代謝経路。発生や脳の発達に重要な役割を果たすことが知られている。
【論文情報】
タイトル:The early postnatal maternal environment influences prepulse inhibition and brain one-carbon metabolites in male mice
著者:Motoko Maekawa*, Hongbo Wang, Hinako Kirikae, Anusree Kumar, Akiko Watanabe, Hisako Ohba, Yasuko Hisano, Tetsuo Ohnishi, Yuji Owada and Takeo Yoshikawa
*責任著者:東北大学大学院医学系研究科器官解剖学分野
准教授 前川 素子(まえかわ もとこ)
掲載誌:Physiology & Behavior
DOI:10.1016/j.physbeh.2026.115514
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院 医学系研究科器官解剖学分野
准教授 前川 素子(まえかわ もとこ)
TEL: 022-717-8037
Email: motoko.maekawa.c7*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL: 022-717-8032
Email: press.med*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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