2026年 | プレスリリース・研究成果
廃熱を電力に変換する技術で大きな前進 ―チタン添加でクロム窒化物熱電薄膜の性能を250倍に向上―
【本学研究者情報】
〇学際科学フロンティア研究所/材料科学高等研究所 助教 双逸
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- クロム窒化物(CrN)薄膜に少量のチタン(Ti)を添加することで、室温成膜のまま、熱電性能を示すパワーファクター(注1)を純CrNの約250倍に向上させました。
- Tiが結晶中の窒素の欠陥を抑え、通常トレードオフの関係にある電気伝導率とゼーベック係数(注2)を同時に高めることに成功しました。
- 窒化物薄膜を用いた熱電デバイスを実証し、既存の高性能材料(注3)に匹敵する出力を確認しました。高温プロセスを必要としないため、窒化物熱電デバイスの実用化を加速する成果として期待できます。
【概要】
私たちの身の回りでは、さまざまな機器から発生する熱の多くが、利用されないまま廃熱として環境中へ放出されています。この廃熱を電力に変換する熱電材料(注4)のうち、薄膜熱電材料は、デバイスの集積化や小型化に適していることから、近年関心が高まっています。中でも、クロム窒化物(CrN)は優れた熱電特性に加えて、高温環境下でも安定に動作する有望な薄膜熱電材料として知られています。しかし、高い熱電性能を得るには高温成膜やエピタキシャル成長(注5)が必要とされ、使用できる基板が限られるため、さまざまなデバイスへの集積が困難でした。
東北大学の研究グループは、CrN薄膜へのチタン(Ti)添加により、結晶中の窒素空孔(注6)を抑制し、電気伝導率とゼーベック係数を同時に制御することに成功しました。その結果、室温で成膜したままでも熱電性能が飛躍的に向上しました。さらに、この薄膜を用いた発電デバイスを試作しその出力特性を実測すると、既存の高性能熱電薄膜に匹敵する水準の出力密度が得られました。本成果は、高温プロセスを必要としない窒化物熱電デバイスの実現性を示すものです。
本研究の成果は、2026年10月12日に英国王立化学会誌Journal of Materials Chemistry Aに掲載されました。
図1. Ti添加CrN薄膜の室温における電気特性と熱電特性のTi濃度依存性。(a)抵抗率、(b) 移動度、(c) キャリア濃度、(d) 室温(300 K)におけるゼーベック係数。(e) ホール効果測定による抵抗率と室温(300 K)におけるゼーベック係数から算出したパワーファクター。(f) 代表的な熱電薄膜材料系のパワーファクターと最大プロセス温度の比較。
【用語解説】
注1. パワーファクター:熱電材料の性能を評価する指標の一つで、ゼーベック係数と電気伝導率から決まる。値が大きいほど、発電性能が高いことを示す。
注2. ゼーベック係数:温度差によって発生する電圧の大きさを示す指標。値が大きいほど、同じ温度差を与えた際に大きな電圧を取り出すことができる。
注3. 既存の高性能材料:高い熱電性能を示し、薄膜デバイスへの応用が進められている材料。代表的なものに、ビスマス・テルル系(Bi-Sb-Te-Se系)、銀セレン化物(Ag2Se)系、有機複合材料などがある。
注4. 熱電材料:温度差を電気エネルギーに直接変換できる材料。外部電源を用いずに発電できるため、廃熱の有効利用技術として注目されている。
注5. エピタキシャル成長:単結晶基板上で結晶方位を揃えて成長させる方法。特殊基板を用いて、高温で成膜をすることが多い。
注6. 窒素空孔:結晶中で本来窒素原子が占めるべき位置が空いている欠陥。CrNでは電子を放出する供給源として働く。
【論文情報】
タイトル:Breaking the Trade-Off in CrN Thermoelectrics via Ti doping: From Room-Temperature fabricated Films to Device-Level Performance
著者:Junya Kurahashi, Yi Shuang*, and Yuji Sutou
*責任著者:
東北大学学際科学フロンティア研究所
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
助教 双 逸(シュアン イ)
掲載誌:Journal of Materials Chemistry A
DOI: 10.1039/D6TA04854D
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学学際科学フロンティア研究所
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
助教 双 逸(シュアン イ)
TEL:022-795-7339
Email:shuang.yi.e3*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL:022-217-6146
Email:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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