2026年 | プレスリリース・研究成果
太陽風の「ミクロとマクロの境界」で磁場のねじれが成長する新現象を発見 ―探査機PSPの超高精度データがもたらすプラズマ乱流理論の新たな地平―
【本学研究者情報】
〇【研究当時】流体科学研究所 客員准教授 横井喜充
【発表のポイント】
- NASAの太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」(Parker Solar Probe; PSP)の観測データを用い、太陽風の中で磁場の「ねじれ」「渦」「結びつき」を示す磁気ヘリシティーが、時間とともに大きな構造へと成長していく現象を世界で初めて直接捉えました。
- この磁場の「渦」の大きさの成長が、太陽風プラズマを個々の粒子の集まりとして扱えるミクロなスケール(kinetic scale)と、流体として扱えるマクロなスケール(MHD scale)の「境界領域」で起きていることを発見しました。従来の物理学の枠組み(カスケード理論)では説明できない未知のスケール領域であり、プラズマ乱流の理論を拡張する画期的な発見です。
- 乱流輸送の基礎理論の発展により、GPS障害や送電網の停電を引き起こす「宇宙天気」の高精度な予測や、将来のクリーンエネルギーとして期待される「核融合発電」でのプラズマ安定化技術への貢献が期待されます。
【概要】
ブラウンシュヴァイク工科大学理論物理学研究所(ドイツ)の成田康人教授と飯澤正登実教授代理、東京大学大学院理学系研究科の横井喜充客員共同研究員(兼:東北大学流体科学研究所客員准教授(研究当時))、九州大学大学院総合理工学研究院の松清修一教授(兼:大阪大学レーザー科学研究所招へい教授)らによる10カ国からなる国際研究チーム(日・独・スウェーデン・豪・米・仏・伊・ルーマニア・ブラジル・ジョージア)は、太陽から吹き出す「太陽風」(注1)において、磁場のねじれ構造を示す「磁気ヘリシティー」(注2)が大きな構造へ成長していく現象を世界で初めて観測しました。
本研究は、粒子の集合としての性質と流体としての性質が交差する境界領域で、磁場の「渦」が自ら大きな構造を作っていくことを示しました。乱流輸送の基礎理論に影響を与えるこの成果は、宇宙天気の精度向上や次世代エネルギーである核融合炉の制御に大きく貢献することが期待されます。
太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」
Image credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben
【用語解説】
(注1)太陽風
太陽の表面(コロナ)から宇宙空間へ向かって絶え間なく吹き出している、超高速(秒速数百km)の電離気体(プラズマ)の流れ。地球近傍を含む太陽圏全体に広がっており、地球の磁気圏とぶつかることでオーロラを引き起こすほか、その激しい変動が「磁気嵐」として地上や衛星の社会インフラに大きな影響を及ぼす。
(注2)磁気ヘリシティー
磁場がどれくらいねじれたり、からみ合ったりしているかを示す物理量。電気抵抗や磁場の漏れがない理想的な環境では変化せずに保たれる(保存量である)性質があり、実際の太陽風においてもきわめて崩れにくい「頑健な」保存量として振る舞うことが知られている。磁場が持つ構造の安定性やエネルギーの保持に深く関わっている。
【論文情報】
雑誌名:The Astrophysical Journal Letters (ApJL)
題 名:Nonlocal Evolution of Magnetic Helicity across the Magnetohydrodynamic-Kinetic Interface
著者名:Masatomi Iizawa, Yasuhito Narita, Tommaso Alberti, Stuart D. Bale, Axel Brandenburg, Abraham C.-L. Chian, Horia Comișel, Shuichi Matsukiyo, Nobumitsu Yokoi (独機関所属者以外はアルファベット順)
DOI:10.3847/2041-8213/aea84b
問い合わせ先
東北大学流体科学研究所 国際研究戦略室(広報)
Tel:022-217-5873
E-mail:ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)