2026年 | プレスリリース・研究成果
乱流はどこから始まるのか ―壁ぎわに現れる未知の微細な流れ構造を発見―
【本学研究者情報】
〇流体科学研究所 准教授 焼野藍子
【発表のポイント】
- 層流から乱流へ切り替わる直前の流れを直接数値計算(注1)で調べ、壁ぎわに微細なコヒーレント構造(注2)が現れることを明らかにしました。
- 同じレイノルズ数における遷移過程(注3)でこれまで報告された構造よりも微細で、スパン方向の速度変動が約45度に傾く特徴があります。
- 壁ぎわの流れの変動を数値的に抑えると、下流で乱流渦の発達が弱まることを確認しました。乱流への遷移の仕組みを理解し、将来の流れ制御につながる可能性があります。
【概要】
航空機や自動車の表面を流れる空気は、上流では整然とした「層流」ですが、ある地点から「乱流」へと切り替わります。この切り替わりを遷移と呼び、乱流になると摩擦抵抗が増えるため、遷移を遅らせることは省エネルギー技術の重要な課題です。しかし、遷移直前の壁ぎわで生じる微細な流れの構造については、十分に解明されていませんでした。
東北大学流体科学研究所の焼野藍子准教授は、高解像度の直接数値計算により、壁から境界層厚さの14.3%以内というごく近い領域に、微細なコヒーレント構造が現れることを示しました。その波長は境界層厚さの0.35〜0.55倍で、同じレイノルズ数における遷移過程で従来報告された構造よりも小さく、スパン方向の速度変動が約45度に傾く特徴があります。また、線形安定性解析から、古典的なトルミーン・シュリヒティング波(注4)の不安定性では説明できないことも示しました。
本成果は、遷移の初期段階を理解する手がかりとなり、壁ぎわを狙った流れ制御の設計指針につながる可能性があります。一方、構造の生成機構や遷移への寄与は未解明であり、今後も検証を進めます。
本研究成果は、2026年10月16日に流体力学分野の国際学術誌 European Journal of Mechanics - B/Fluids に掲載されました。
図1. 遷移が始まる直前の壁面近傍に現れた、約45度に傾いた周期的な流れ構造。波長は境界層厚さの0.35〜0.55倍である。
【用語解説】
注1. 直接数値計算(DNS:Direct Numerical Simulation):流れの支配方程式であるナビエ・ストークス方程式を、乱流モデルを使わずに直接解く数値計算手法である。最小の渦までを格子で解像する必要があり計算コストは大きいが、モデルに由来する誤差が入らない。本研究では6次精度コンパクト差分スキームを用い、解像度の異なる2種類の格子で同一の結果が得られることを確認している。
注2. コヒーレント構造:一見無秩序に見える流れのなかに現れる、空間的・時間的に相関をもった秩序だった運動である。渦や波のようなまとまりとして繰り返し現れ、流れの遷移や乱流の維持を支配する。単一のスナップショットだけでは偶然の模様と区別できないため、相関統計による確認が必要となる。
注3. 遷移:整然と層状に流れる「層流」から、乱れを伴う「乱流」へと切り替わる過程である。乱流になると壁面摩擦は著しく増大するため、遷移を遅らせて層流を保つことが摩擦抵抗低減の重要な手段となる。
注4. トルミーン・シュリヒティング波(TS波):層流境界層のなかで自発的に成長する、流れ方向に伝わる二次元的な波である。古典的な線形安定性理論(オア・ゾンマーフェルト方程式)で記述され、遷移の代表的な経路をなす。本研究のレイノルズ数ではTS波の中立波長は境界層厚さの約55.7倍であり、今回の構造とは波長が100〜160倍隔たっている。
【論文情報】
タイトル:New coherent flow structure near a wall in the transitional boundary layer
著者:Aiko Yakeno*
*責任著者:東北大学流体科学研究所 准教授 焼野 藍子
掲載誌:European Journal of Mechanics - B/Fluids
DOI:10.1016/j.euromechflu.2026.204656
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学流体科学研究所
准教授 焼野 藍子
TEL: 022-217-5267
Email: aiko.yakeno*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学流体科学研究所
国際研究戦略室 広報担当
TEL: 022-217-5873
Email: ifs-koho*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)