2026年 | プレスリリース・研究成果
Gαタンパク質スイッチ制御の新たな仕組み ―N末端ヘリックスの回転がGDP解離を促す―
【本学研究者情報】
〇大学院薬学研究科 教授 井上飛鳥
研究室ウェブサイト
【概要】
私たちの体を構成する細胞は、細胞外からさまざまな情報を受け取り、細胞内に情報を伝達しています。この情報伝達で重要な役割を担うタンパク質の1つが、細胞表面に存在するGタンパク質共役型受容体(GPCR)(注1)と、その情報を細胞内へ伝える三量体Gタンパク質(注2)です。三量体Gタンパク質のサブユニットの1つであるGαタンパク質(注3)は、細胞外分子と結合したGPCRと相互作用すると、GDP(グアノシン二リン酸)(注4)を放出してGTP(グアノシン三リン酸)を取り込むことで、スイッチがオンとなりますが、その詳しい仕組みには未解明な点が残されていました。
京都大学大学院薬学研究科の新井大輝博士課程学生と井上飛鳥教授(兼: 東北大学大学院薬学研究科教授)と東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の佐々木裕次教授らの研究グループは、Gαタンパク質のN末端ヘリックス(注5)が、特定方向に回転することでGαタンパク質のGDP結合部位へ構造変化が伝わり、GDPの放出の引き金となることを明らかにしました。本成果は、三量体Gタンパク質のスイッチが制御される仕組みの理解を深め、GPCRを標的とする医薬品の作用をより詳しく理解するための基盤になることが期待されます。
本研究成果は、2026年10月30日午前10時(英国時間)に、Nature Chemical Biologyに掲載されました。
概略図:N末端ヘリックスが駆動するGαタンパク質からのGDP解離機構
GPCRと相互作用すると、GPCR側から見て反時計回りにN末端ヘリックスは回転する。この構造変化がGαタンパク質全体に伝播していき、最終的にGDP結合部位の構造変化を誘導し、GDPの放出を促進することが明らかになった。
©京都大学・薬学研究科・シグナル薬理学分野
【用語解説】
注1. Gタンパク質共役型受容体(GPCR)
細胞膜表面に存在する受容体であり、ヒトでは約800種存在する。GPCRは、特定のホルモンや代謝物などと結合することでスイッチがオンとなるように構造変化し、主に三量体Gタンパク質と結合することで、さまざまな細胞応答を引き起こす。また、薬の主要な作用標的(承認薬の約3分の1)であり、創薬研究において重要な分子である。
注2. 三量体Gタンパク質
GPCRと結合することでスイッチがオンになり、細胞内にシグナルを伝達するタンパク質。Gαタンパク質、Gβタンパク質、Gγタンパク質の3つのサブユニットから構成される。
注3. Gαタンパク質
三量体Gタンパク質を構成するサブユニットの1つであり、GPCRと直接結合する。通常、GDPが結合しており、構造変化に伴いGDPが解離し、スイッチがオンの状態に移行する。配列の相同性や機能の類似性から、Gs、Gi、Gq、G12の4つに大別される。オン状態のGαタンパク質はGPCRやGβγタンパク質から解離して単量体状態になり、下流のシグナル分子と結合できるようになる。
注4. GDP(グアノシン二リン酸)
ヌクレオチドの1種。オフ状態のGαタンパク質と結合する。
注5. N末端ヘリックス
Gαタンパク質のN末端に位置するヘリックス構造。N末端ヘリックスのN末端側は脂質修飾が施され、形質膜にアンカーされる。さらに、N末端ヘリックスの片側は膜と静電相互作用し、反対側はGβγと相互作用して三量体形成を補助している。また、N末端ヘリックスのC末端側はGPCRに近接しており、多数のGPCR-三量体Gタンパク質複合体構造で相互作用が確認されている。
【論文情報】
タイトル:Rotation of the N-terminal helix triggers Gα activation
著者:Hiroki Arai1,2, Tatsuya Ikuta2,3, Ryoji Kise1,2,4 , Manae Tatsumi2, Yotaro Koizumi1, Masataka Yanagawa1,2, Daisuke Sasaki5, Caesar Tawfeeq6, Hidetaka S Oshima7, Wing-In Yau3, Wataru Shihoya3,7,8, Adnan Sljoka9,10, Keizaburo Taninaka5, Osamu Nureki7,11, Roger K Sunahara6, Kazuhiro Mio12, Yuji C Sasaki5,12, Asuka Inoue1,2,*
1. 京都大学 大学院薬学研究科
2. 東北大学 大学院薬学研究科
3. 慶應義塾大学 医学部
4. 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)
5. 東京大学 大学院新領域創成科学研究科
6. Department of Pharmacology, University of California San Diego
7. 東京大学 大学院理学系研究科
8. 慶應義塾大学 ヒト生物学-微生物叢-量子計算研究センター(WPI-Bio2Q)
9. 理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP)
10. Department of Chemistry, York University, Toronto
11. 東京科学大学 総合研究院
12. 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ(OPERANDO-OIL)
*責任著者
掲載誌:Nature Chemical Biology
DOI:10.1038/s41589-026-02359-y
問い合わせ先
(報道に関すること)
東北大学薬学部・薬学研究科 総務係
TEL:022-795-6801
Email:ph-som*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)