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物質中の量子構造である「量子幾何」が生みだす 新奇現象の電流制御に成功 ―非線形伝導を活用した革新的スピンデバイスへの応用に期待―

【本学研究者情報】

〇電気通信研究所 教授 深見俊輔
研究室ウェブサイト

【発表のポイント】

  • 物質中の量子状態の構造「量子幾何」(注1)に由来した、従来とは異なる電気伝導状態「非線形ホール状態」(注2)を室温下の磁性体中で観測しました。
  • 磁性体の磁気構造を介して、量子幾何由来の非線形ホール状態を電流で制御することに成功しました。
  • 本成果は周波数変調・信号増幅など革新的な量子デバイスへの基盤技術として期待されます。

【概要】

近年、物質中の電子の量子状態が持つ構造である「量子幾何」が、オームの法則に従わない特異な電気伝導現象「非線形伝導」を生み出す重要な起源として注目されています。これまでの研究では、このような非線形伝導の観測やその物理的起源の解明が中心でした。一方で電子デバイスへの応用に向けては、こうした応答を電気的に制御する必要があります。

このたび、東北大学と日本原子力研究開発機構からなる研究チームは、トポロジカル反磁性体であるマンガン・スズ化合物(Mn3Sn)において、量子幾何に由来する非線形ホール状態を室温下で観測し、かつそれを電流で制御することに成功しました。具体的には、量子幾何に由来する非線形ホール状態と磁気秩序の対応関係を利用し、電流により誘起されたスピン軌道トルク(注3)によって磁気秩序を制御することで、非線形ホール状態の電流制御を実現しました。本成果は、量子幾何に由来する特異な電気伝導を自在に操る新たな道を拓くとともに、電気信号の周波数変換や増幅などの機能を電流で制御する次世代電子デバイスへの応用が期待されます。

今回の研究成果は、2026年11月4日(米国時間)付で、Cell Pressが刊行する学術誌「Newton」に掲載されました。

図1. 磁気秩序を介した量子幾何由来の非線形ホール状態の電流制御。Mn3Snの磁気秩序を電流で制御することで、量子幾何に由来する非線形ホール状態を制御します。図の左右は異なる磁気秩序を示しており、磁気秩序の変化に伴って非線形ホール電圧の向きが反転します。

【用語解説】

注1. 量子幾何
物質中の電子の量子状態が持つ幾何学的な性質のことです。電子の波動関数が運動量空間でどのように変化するかを特徴づけるもので、ベリー曲率や量子計量などによって表されます。近年、量子幾何が電気伝導や超伝導など、さまざまな物性や量子現象の起源となることが明らかになり、新たな物性を生み出す重要な概念として注目を集めています。

注2. 非線形ホール状態
物質に電流を流した際に、電流と垂直な方向に非線形な電圧が生じることで特徴づけられる電子状態です。通常のホール効果では電圧が電流に比例するのに対し、非線形ホール状態では、電流の2乗や3乗などに比例するホール電圧が現れます。特に量子幾何に由来して発現する非線形ホール状態を量子幾何誘起非線形ホール状態と呼びます。

注3. スピン軌道トルク
流れる電子のスピンとその運動が結びつくスピン軌道相互作用を利用して、磁気秩序に力(トルク)を与える現象です。電流を流すことで生じるスピン蓄積が磁気モーメントに作用し、その向きを変化させることができます。このため、外部磁場を用いずに電気的な方法で磁気状態を高速に制御することが可能であり、磁気メモリや情報処理デバイスなどへの応用が期待されています。

【論文情報】

タイトル:"Electric-current manipulation of quantum-geometric nonlinear Hall state in a chiral antiferromagnet"
著者:Tomohiro Uchimura*, Jiahao Han*,**, Yasufumi Araki, Yuta Yamane,
Shun Kanai, Jun'ichi Ieda, Hideo Ohno, and Shunsuke Fukami **
*共同筆頭著者
**責任著者:
東北大学先端スピントロニクス研究開発センター 准教授 Jiahao Han
東北大学電気通信研究所 教授 深見 俊輔
掲載誌:Newton
DOI:10.1016/j.newton.2026.100722

詳細(プレスリリース本文)PDF

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 電気通信研究所
教授 深見 俊輔
TEL: 022-217-5555
Email: s-fukami*tohoku.ac.jp (*を@に置き換えてください)
(兼)東北大学大学院工学研究科電子工学専攻
(兼)東北大学先端スピントロニクス研究開発センター (CSIS)
(兼)東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター (CIES)
(兼)東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
(兼)公益財団法人稲盛科学研究機構 (InaRIS)

(報道に関すること)
東北大学 電気通信研究所 広報室
TEL: 022-217-5427
Email: riec-kohoshitsu*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)