2024年 | プレスリリース・研究成果
外部磁場を必要としない新型超伝導磁束量子ビットを世界で初めて実現 ~量子コンピュータの小型化に貢献する素子応用を拓く~
【本学研究者情報】
〇大学院工学研究科 教授 山下太郎
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
- コイルなどの補助回路を必要とせず、ゼロ磁場で最適動作できる新型の超伝導磁束量子ビットを開発
- 強磁性ジョセフソンπ接合を持つ超伝導量子ビットとしては最も優れたコヒーレンス時間を達成
- 量子コンピュータの小型化を実現する量子素子への応用に期待
【概要】
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー)、理事長: 徳田 英幸)は、日本電信電話株式会社(NTT、代表取締役社長: 島田 明)、国立大学法人東北大学大学院工学研究科(工学研究科長: 伊藤 彰則)、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学(総長: 杉山 直)と共同で、ゼロ磁場で動作する新型超伝導磁束量子ビット*1の開発に成功しました。
超伝導磁束量子ビットには、従来、コイル等の補助回路で発生させた外部磁場が必須でした。今回開発した強磁性体を使ったジョセフソンπ接合*2による超伝導磁束量子ビットは、コイル等を必要とせず、外部磁場印加と同等な超伝導の位相を反転させる機能を確認しました。さらに、π接合を組み込んだ量子ビットの中では最長クラスのコヒーレンス時間を達成しました。量子ビットの寿命はマイクロ秒の範囲ですが、今後、π接合の材料を更に改良することで、このπ接合やゼロ磁場で動作可能な磁束量子ビットは、量子コンピュータに欠かせない高機能な量子素子の必須要素となる可能性があります。
本成果は、2024年10月11日(金)に、英国科学雑誌「Communications Materials」に掲載されました。
図1 従来型と新型の超伝導磁束量子ビット回路の概念図: (a) 従来型磁束量子ビットは、三つのジョセフソン接合(JJ、×、黒色)を含む超伝導ループで構成され、基底状態|0>と励起状態|1>の重ね合わせ状態で最適動作させるためには、外部磁場の印加が必要である。 (b) 一方、π接合(π-JJ、*、赤色)を用いた新型磁束量子ビットでは、外部磁場なしで自発的に最適動作点に達する。
【用語解説】
*1 超伝導磁束量子ビット
量子ビット(量子コンピュータで使われる量子情報を扱う基本素子)の一種で、ジョセフソン接合*3を含む超伝導ループから構成される。0と1の重ね合わせの状態は、磁束で誘導される超伝導ループ内の永久電流(例えば、右回りの電流を0状態としたら、左回りの電流は1状態を表す。)によって実現される。
*2 π接合
π接合は超伝導体(S)間に強磁性体(F)を挟んだ構造を持つ特殊なジョセフソン接合*3で、ジョセフソン電流バイアスがゼロの時、位相差が通常のジョセフソン接合の0ではなく、180度(π)になることが特徴である。この位相のシフトにより、ジョセフソンπ接合は、超伝導回路や量子ビットに半磁束量子に相当する磁場印加と同じ効果をもたらす。
*3 ジョセフソン接合
二つの超伝導電極(S)を極薄の絶縁体(I)あるいは常伝導金属薄膜で隔てた構造の接合(ジョセフソン接合)を持つ素子をジョセフソン素子と呼び、超伝導電極間のトンネル効果によって電気抵抗ゼロ(ゼロ電圧)の電流(ジョセフソン電流IS)が流れる。このジョセフソン電流の大きさは、両超伝導電極の巨視的位相の差(ϕ)によって決まるため(直流ジョセフソン効果)、逆に、ジョセフソン素子にどれだけ電流を流すかで超伝導電極間の巨視的位相を制御することができる。超伝導量子ビットを始めとする多くの超伝導デバイスは、このジョセフソン素子による巨視的位相制御を基本動作原理としている。
【論文情報】
タイトル:Superconducting flux qubit with ferromagnetic Josephson -junction operating at zero magnetic field
著者: Sunmi Kim, Leonid V. Abdurakhimov, Duong Pham, Wei Qiu, Hirotaka Terai, Sahel Ashhab, Shiro Saito, Taro Yamashita, and Kouichi Semba
掲載誌:Communications Materials
DOI:10.1038/s43246-024-00659-1
問い合わせ先
(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
教授 山下 太郎
TEL: 022-795-7974
Email: taro.yamashita.c8*tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤 みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp
(*を@に置き換えてください)
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