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令和3年8月東北大学入学式祝辞

【はじめに】

改めて入学と進学おめでとうございます。東北大学を代表して、学部2年生2,438名の皆さんの入学と大学院進学者2,748名の皆さんの進学を心より歓迎いたします。

また、皆さんが晴れてこの日を迎えることを心待ちにし、皆さんをさまざまな形で支え、励まし続けてこられたご両親、ご家族、そして関係者の皆様にも、心よりお喜びを申し上げます。

さて、新型コロナウイルス感染症の拡大は、昨日閉幕した「東京オリンピック2020」や今月下旬に開幕する東京パラリンピックはもちろん、世界中の多くの人々に大変深刻な影響、そして災禍を及ぼしてきました。私たちも昨年4月と本年4月に予定されていた入学式を、感染状況の拡大を受けて延期し、今日の開催に至りました。

歴史を紐解きますと、本学では、1907年の創設からしばらくの間は、「7月入学」で「9月授業開始」という学事暦でした。「4月入学」に切り替わったのは、1921年(大正10年)のことです。皆さんが出席された本日の入学式は、ちょうど1世紀ぶりにこの時期に開催されたことになります。

【新型コロナウイルスと東北大学の対応】

本学では、感染症拡大防止のため、政府の感染症対策アドバイザリーボードに参画する本学教員の助言等も受けながら、講義や課外活動も含めた行動指針BCP(Business Continuity Plan)を定め、ホームページ等で公開しています。また、大学病院を中心に、本年5月に宮城県及び仙台市と協力して大規模ワクチン接種センターを開設して地域の方々を対象にワクチン接種を行い、6月には本学の学生及び教職員に対する職域接種を開始するなど、本学の構成員と地域の方々を新型コロナウイルスから守るための活動を実施しています。今後も、これまで蓄積してきた科学的知見と経験を最大限に活用し、教育研究活動が円滑に実施できるよう取り組んでいきます。

【東北大学の理念と世界最先端の研究】

さて、東北大学は、今から114年前の1907年に、この仙台の地に東京と京都に次ぐ第三の総合国立大学として創設されました。その後、本学は「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念の下で、世界をリードする研究成果を挙げ、多くの指導的人材を世界に輩出してきました。本学は、現在、10の学部、15の大学院研究科、3つの専門職大学院、6つの附置研究所、病院、附属図書館をはじめ多くの機構を有する日本を代表する総合研究大学として発展を遂げています。

「門戸開放」の理念に関しては、1913年に本学は日本の大学として初めて、3名の女子学生の入学を認めました。性別や出身校、国籍等にとらわれず幅広く優秀な人材を世界から受け入れる本学の「門戸開放」の理念は、今日の言葉でいえば「ダイバーシティー」を意味します。本学はこのようにダイバーシティーを建学の理念として1世紀以上にわたり実践してきたのです。

「研究第一」の理念に関連する例として、本学の計測に関する長年にわたる研究について紹介します。1943年に本学に設置された旧・科学計測研究所では、計測の分野で世界をリードする数々の研究が行われました。波岡武教授の研究成果に基づき建設された超大型極紫外分光器は、分解能世界一を誇る世界最高水準の機器として共同利用に供されました。また、科学計測研究所の第3代所長を務めた日比忠俊教授が開発した「日比カソード」は、電子顕微鏡の分解能の飛躍的向上に貢献し、1966年に世界で初めて0.1nmの分解能を実現しました。

現在、東北大学の青葉山新キャンパスでは、官民共同で「次世代放射光施設」の建設が進んでいます。直径100mのX線顕微鏡であるこの施設は、その高い性能で、工学、理学、医学や生命科学、農学などの幅広い分野の進展に寄与することが期待されています。本学の計測応用分野の研究を新たな段階へと発展させるものです。

皆さんは東北大学の一員として最先端の学術研究に携わることになります。「最先端に立つと見える景色が違う」これは、研究の分野でよく言われる言葉ですが、皆さん一人一人がそれぞれの専門分野で「新しい景色」を見ることを通じて、未来をたくましく切り開いていくものと期待しています。

「実学尊重」は、基礎研究から応用研究まで、研究成果を広い意味でのイノベーションと社会変革に役立ててきた伝統を意味します。社会を変革する駆動力が大学に期待されている今日、これはますます重要な理念となっています。本学の第17代総長であった西澤潤一教授は、「光通信の父」と呼ばれており、ハードディスクドライブに使用される垂直磁気記録を発明した岩崎俊一教授、スマートフォンに使われるフラッシュメモリを発明した舛岡富士雄教授など、情報の世紀と呼ばれる21世紀の基盤となる研究成果は、東北大学関係者が生み出し、それが社会で実用化されたものです。

【「総合知」による未来社会の構築に向けて】

今年で東日本大震災から10年が経ちました。本学が取り組んできた復興に関するさまざまな活動をさらに発展させるため、この4月に「東北大学グリーン未来創造機構」を設置しました。併せて「東北大学グリーンゴールズ宣言」を行い、地球環境の維持と持続可能で強靭な社会の構築に貢献するため、グリーン社会の実現に向けた人材育成、研究開発、社会共創を進めるとともに、大学キャンパスのカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。

人類社会の平和で、かつ持続的な発展は、テクノロジーだけで実現できるものではありません。現代の国際社会の構造は複雑です。多様な文化や多元的な価値観を理解できるしなやかな感性や世界的課題への共感能力などが、国際的な枠組の構築やルール作りには重要になります。本学では、人文・社会科学の分野でも世界的に特徴ある研究教育が展開されています。

そもそも、東北大学の初代総長の澤柳政太郎が本学の創設に際して目指したのは、大学の総合制に基づく「総合知」を涵養する教育でした。皆さんの生きる社会は、激変の時代です。そのとき皆さんの羅針盤となるのは、狭い専門知識を越えた、人文・社会科学から自然科学までを横断する総合的な知識、深い考察、そして知恵を結びつけた「総合知」です。本学がその創設当時から重きを置いてきた「総合知」の重要性は、未来に向けてますます高まっているのです。

【本学卒業生の活躍と新入生への期待】

さて、ここで最近の卒業生の活躍にも触れておきましょう。

先月、仙台市出身で本学を卒業した石沢麻依さんの小説「貝に続く場所にて」が第165回芥川賞を受賞しました。この小説は、東日本大震災を主題として取り上げた作品ですが、受賞作の舞台となったゲッチンゲンは、本学創設期の中心メンバーの一人であり後に本学の第6代総長となった本多光太郎博士が在外研究に従事するなど、東北大学と深い関わりのある場所です。

また、本学の法学部、法科大学院を経て弁護士でもある五十嵐律人さんの小説「法廷遊戯」は、エンタテインメント作品を対象とするメフィスト賞を昨年受賞しています。お二人の今後の活躍が期待されます。

もう一人、現在NASA(アメリカ航空宇宙局)で活躍している大丸拓郎さんにも触れておきましょう。大丸さんは、本学卒業後2017年からNASAジェット推進研究所に勤務しており、火星探査車搭載ロケット打ち上げに関するプロジェクトに参画しています。今年2月には大丸さんが開発に携わった探査機「パーサヴィアランス」が火星への着陸に成功したところです。

このほかにも幅広い分野で数多くの東北大学の卒業生・修了生が活躍しています。皆さんには、本学での研鑽を経て、それぞれの分野で思う存分活躍していただければと願っています。

【東北大学コミュニティの一員として――萩友会、東北大学基金、学友会】

卒業生の活躍をご紹介しましたが、東北大学に入学した本日お集りの皆さんは、「東北大学コミュニティ」の一員です。東北大学には、学生や保護者の皆様と同窓生、教職員をはじめとする東北大学コミュニティをつなぐ全学組織として「萩友会」があり、日本全国や海外にもその支部が置かれ活発な活動を展開しています。

また、学生諸君の教育研究活動等を支援する「東北大学基金」も設けられており、さらに「学友会」が体育部や文化部などさまざまな課外活動を支援しています。

皆さんには、是非これらの活動にも積極的に参加していただくと同時にご協力をいただければ幸いです。

【留学生諸君に】

さて、東北大学は、建学当初から世界に開かれたグローバルな大学であり、世界の多くの国や地域からの留学生が学んでいます。ここで、海外から本学に入学した留学生のために、英語でお祝いの言葉を述べたいと思います。

I would like to take this opportunity to address our new international students. Welcome to Tohoku University. I am delighted to finally meet you all in person.

I hope, despite the unconventional start necessitated by the on-going COVID-19 pandemic, you will feel welcomed here in Sendai, settled and excited for the new experiences ahead.

Since its founding in 1907, Tohoku University has been a research-centered, practice-oriented institution that values innovation and diversity.

We were Japan's first university to accept female students in 1913; and we continue to place great emphasis on an international curriculum that focuses on helping students develop a more global mindset, in an open and diverse environment.

On the research front, the hard-disk drive and flash memory, essential technology to store the ever-increasing amount of data currently used on a daily basis, have been invented by affiliates of Tohoku University.

Japan's first next-generation synchrotron radiation facility is currently under construction at the new extension of our Aobayama Campus. When it is operational, the facility will be the centerpiece of a regional research complex that will comprise the R&D sites of major universities and companies from around the world.

Through our strong academic and industry network, you will not only gain knowledge of the subjects you choose here, but will also get the chance to interact with - and learn from students around the world.

I'm confident that your time with us will be intellectually stimulating and emotionally fulfilling. You will meet people from many backgrounds and cultures, hear things from different perspectives, and develop an awareness that will make you all better people.

Just remember that all of us - faculty members, staff and students - are here to help and support you.

Welcome to the family. Welcome to Tohoku University.

【結びの言葉】

これからも新型コロナウイルス感染症に注意しなければならない状況が続きます。皆さんも一人一人、この感染症の拡大防止に注意を払いながら、本学において充実した有意義な学生生活を送ることを期待します。

改めて、東北大学は、次世代の有為な人材である皆さんの入学と進学を心よりお祝いいたします。皆さんが、本学においてさらに大きく成長されることを期待して、私のお祝いの言葉といたします。

令和3年8月9日


東北大学総長

大野 英男


里見進前総長メッセージはこちらよりご覧ください。

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