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令和6年1月年頭所感

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

2024年は大きな災害の知らせとともに始まりました。この度の能登半島地震により亡くなられた皆さま、そして亡くなられた海上保安庁の職員の方々のご冥福をお祈りしますとともに、被害を受けられた皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。一日も早く日常生活を取り戻せるようお祈り致します。

今から13年前、2011年が東日本大震災の年でした。能登半島地震の被害の様子は、まさにその時の光景に重なり、大きな衝撃を受けました。東北大学の構成員は、東日本大震災の発災当初から現在に至るまでの困難な課題解決への貢献を通して、東北大学の社会的使命を強く自覚し、共有してきました。この経験こそ、私たちが予測困難な世界で行動し、社会価値を生み出すための土台でもあります。この度の被災地へのご支援、災害メカニズムの解明、さらには、レジリエントな社会の実現に向けて取り組んでまいります。

新たな総合知としての災害科学

東北大学における災害科学研究は災害科学国際研究所(IRIDeS)が全体を取りまとめています。今回の能登半島地震においても、本学の中で真っ先に動きました。すでに、発災当日から対応会議が開催され、情報の収集と具体的な対応が協議されています。そこでは、医学、理学、工学、人文学、社会科学、情報科学など、多様な領域の専門家が集い、専門家の現地派遣、地震および津波の発生メカニズムの解明、被害状況の推計、正確な情報の発信などが検討され、具体的なアクションがスタートしています。さらに、今回の被災地には重要な文化財や歴史資料なども多いことから、歴史学者らによる文化財レスキューの検討も始まりました。

災害科学の研究対象は、現在のような発災時の対応だけに留まらず、発災前の社会の在り様、発災後の復旧・復興からより強靱な社会をデザインし実現する営みまで、一連の災害サイクルの全過程を含みます。国際アジェンダや標準規格の策定などを通した研究成果の社会実装も重要なテーマであり、内外の多様なアクターとの連携が不可欠です。現在、国外にあっては国連やAPRU(Association of Pacific Rim Universities)、ドイツ災害技術支援庁など、国内にあっては防災科学技術研究所をはじめとして多数の大学・研究機関、さらには産業界やスタートアップなどとの連携が進展しています。このように東北大学では、多岐にわたる「知」を総合した災害科学の推進が一つの特徴となっています。

卓越した多様な研究を推進する環境

これまでに述べてきた災害科学の事例は、総合研究大学の社会に対する貢献、人類の知に対する寄与の典型例と言えます。大学としてその成果を可視化し、社会に発信していくことも重要です。大学として社会的意義や方向性を内外に示し、社会変革やイノベーションにつなげていくには、個々の研究者や研究室という単位を超えた総合的な取り組みが不可欠です。

一方、これらの取り組みも、研究者一人ひとりの多様な研究活動が土台にあることを忘れてはなりません。人や自然を深く理解するといった根源的なことから、病気を治す・未然に防ぐ、エネルギーや食糧を生産する、大規模な自然言語処理や省エネルギーの情報処理、社会をよりグリーンにする材料の開発など、卓越した多彩な研究活動が東北大学のキャンパスで展開されています。国際的に卓越した研究大学の生命線は、世界から集まる多彩な研究者の自発的な挑戦を促す優れた研究環境にあります。わが国においては、本来、研究大学が備えるべきこの豊かな研究の土壌に十分な注意が払われてきませんでした。本学が昨年実施した調査においても、研究者が本来の研究活動に費やした時間は、勤務時間全体の30%を越える程度であり、大幅な改善の余地があります。日本の大学は多かれ少なかれ、研究以外のさまざまな業務を研究者である教員が引き受けているのが実情です。国内外の多彩な才能が新たな価値を生み出せるよう、持てるリソースに新たなリソースを加えて支援体制の充実を図り、研究者がその能力を存分に発揮できる環境を整備していきます。

大学の知と産業

大学が生成する知は大きな価値を持ちます。カーボンニュートラル関連技術、生成AI、新型半導体、次世代治療薬やワクチンなど、いずれも大学の研究が大きな貢献を果たしており、近年では大学発スタートアップの創出も加速しています。本学では民間企業の研究活動をキャンパスで展開する「共創研究所」の制度を2021年に創設したところ、その設置数が急伸し、すでに21拠点に達しています。産学連携等の収入も2017年から年率13%で伸びており、2022年には100億円の大台に乗りました。研究活動の社会的価値が高く評価されていることがわかります。共同研究・共創事業に大学の知の価値を反映することも進んできています。研究者の頭脳の価値は単純な時間単価で計ることはできません。共同研究・共創事業が生み出す社会的インパクトを勘案するとともに、それを実施する大学の人件費や基盤整備なども十分に考慮することで、大学が疲弊することなく、持続的に価値創造するための土台が確立しつつあります。このような経営的視点の高度化は、大学が自由度をもって自律的に発展していくための基盤として重要です。

東北大学の提案

ここまでに述べてきたことは、東北大学が提案した国際卓越研究大学の姿に反映されています。研究者が研究に専念できる環境をつくり、社会との共創を通して持続的に発展させていく、私たちが考える新たな研究大学の姿です。これらの国際的に卓越した研究や社会的活動を通して初めてできる人材育成があるとも考えています。今年の10月には初の国際卓越研究大学として認定されるよう対応を進めています。

令和6年1月4日


東北大学総長

大野 英男

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