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令和4年3月東北大学学位記授与式告辞

【はじめに】

本日ここに、東北大学から晴れて学士の学位を授与された2,408名の皆さん、修士の学位を授与された1,708名の皆さん、専門職の学位を授与された92名の皆さん、博士の学位を授与された392名の皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。

また、この間、皆さんが晴れてこの日を迎えることを心待ちにし、皆さんをさまざまな形で支えていただきましたご両親、ご家族、そして関係者の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。

【地震と学位記授与式の開催について】

今月16日に福島県沖を震源として発生した地震により、東北地方を中心に被害が発生しました。この地震で被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。本日の学位記授与式も、この地震の影響で急遽会場を、この東北大学川内萩ホールに変更しました。交通機関に地震の影響が残る中で、本日の学位記授与式にこのように多くの卒業生、修了生が出席できたことを、本当に嬉しく思います。皆さんの門出をお祝いするご関係の方々にも、本日のこの晴れの舞台をご覧いただくことができるよう、式典の模様は本学のホームページで配信しています。

【さまざまな困難や問題を乗り越えて】

新型コロナウイルス感染症は、われわれ一人一人の日々の生活に大きな影響を与えました。皆さんの勉学や研究、そして日常生活も、その影響を強く受けたと思います。東北大学では、この間に発生した諸課題に、2年以上にわたり全学を挙げて全力で取り組んでまいりました。オンライン授業と対面授業を組み合わせた新たな形態の教育、研究活動や課外活動における感染症防止対策、多くの方々からのご寄付等も活用した学生諸君に対する経済的支援の実施などです。

しかし、皆さんが本日この晴れの日を迎えることができたのは、何よりもまず、皆さん一人一人が日々努力を重ねて勉学や研究に励み、その成果を立派に結実させた結果です。私は、厳しい条件の下でそれぞれの目標に向かって研鑽を積み、学位の取得という目標を達成された皆さんに、東北大学を代表して心より敬意を表するとともに、その努力を称えたいと思います。

【東日本大震災の記憶と教訓を将来につなげる】

今月、われわれは東日本大震災から11年を迎えました。この大震災は、東北大学の115年にわたる長い歴史の中でも、決して忘れることのできないものです。東北大学では昨年、東日本大震災に対する取り組みと教訓をレジリエントな未来社会の構築へと発展させるため、グリーン未来創造機構を創設しました。これにより、持続可能で災害に対しても強靭なグリーン未来社会の構築に向け、さまざまな取組みを加速しています。これは東北大学版のSDGsの取組みですが、本日東北大学から巣立つ若い皆さんには、2030年を目標としたSDGsのさらにその先を考え、望ましい未来社会の構築を見据えた活動をそれぞれの分野で進めていただければと願っています。

【現在の国際情勢とわれわれの責務】

さて、現在国際社会では、ロシアがウクライナに侵攻し、深刻で憂慮すべき状況が続いています。東北大学は、世界から学術研究と教育を志す学生と教職員が集まるわが国を代表するグローバルな大学であり、このような国際的な状況と無縁ではあり得ません。皆さんは、悲惨な状況に心を痛め、国際社会の法秩序や国際法というものが無力であるとの思いを抱かれたかもしれません。一方で、これまで「戦争」をどのようにしたら実効的に規制し禁止することができるか、多くの人々が営々とした努力を積み重ねてきたことも忘れるべきではありません。今から1世紀以上前、本学が創設された20世紀初頭の国際社会では、「戦争」は国際法上違法なものとされず、一定のルールに従えば「戦争」を合法的に行うことができると理解されていました。その後、第1次世界大戦の惨禍を踏まえて、国際連盟が創設され、1928年には戦争を一般的に禁止するいわゆる「パリ不戦条約」が採択されました。しかし、第2次世界大戦の発生を防ぐことはできず、その反省を踏まえた国際連合が設立され、人々の努力で国際人権や国際人道などの各分野で国際的なルールが形作られてきました。今回のウクライナをめぐる事態は、このような現在の国際秩序や国際法の実効性をどのように確保し強化していくのかという極めて重大な課題を提起しています。われわれ東北大学も、今回の事態で深刻な被害を受けた関係者やそのご家族への支援に全力を挙げて取り組むと共に、それぞれの専門分野の知見を結集してこのような国際社会の大きな課題の解決に向けて努力していきます。皆さんも、このような課題に一人一人がどのように向かい合っていくべきかを考えていただければと思います。

【東北大学の伝統と「研究第一」の現代的意義】

さて、東北大学は、今から115年前の1907年に、この「杜の都」仙台の地に、東京と京都に次ぐ第三の総合大学として創設されました。そして、今からちょうど100年前の1922年、本学に、理学部、医学部、工学部に加えて、法文学部が開設されることになりました。本学が、人文社会系を含めた「総合大学」としての歩みを始めてから今年は100年という記念すべき年になります。その後1世紀の長きにわたり、本学は「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念の下で、世界をリードする研究成果を上げるとともに、多くの指導的人材を世界に輩出してきました。

本日は、このうちの「研究第一」主義に関する本学の伝統とその現代的意義についてお話しします。本学の初代総長・澤柳政太郎は、本学最初の入学宣誓式で、次のように述べています。「大学は無論学術の研究を主とするものなるが故に、学術の研究に重きを置くは大学としての特色にして各国の大学皆然らざるなし。」「我東北大学はこの点に於いては何れの大学にも退けを取らざる覚悟なり。」これは20世紀初頭のヨーロッパの大学を念頭に、わが国において初めて、研究をする大学と自らを規定したものです。本学創設期の教授たちは着任前に、世界的な研究者の下で第一流の研究に没頭し、研鑽を積みました。澤柳総長が、後に本学の物理学教授となる留学中の石原純を通じてアインシュタインの招聘を計画していたことは、有名なエピソードです。本学の第2代総長を務めた北條時敬もまた、大学教授の必須要件は研究者として第一流であること、と述べています。このような本学草創期における東北大学の理念を「研究第一」主義というに用語に収斂させたのが、本学第6代総長で世界的研究者でもあった本多光太郎です。世界第一流の研究こそが東北大学の最も重要なミッションであり、本学の教育も含めた活動の基盤であるという理念は、第2次世界大戦後も歴代総長と本学構成員によって脈々と受け継がれ、今日まで本学の最も重要な伝統として息づいています。

社会が極めて速いスピードで大きく変容を遂げ、これまでの常識や慣習を乗り越える新たな「総合知」の構築が強く求められている今日、社会変革の原動力として世界水準の卓越した「研究」の重要性はますます高まっています。また、「研究」の価値も、広く社会とのかかわりの中でとらえるべきものとなっています。本学が脈々と培ってきた「研究第一」主義の誇るべき伝統は、深く考え、真理を明らかにし、そこから次のステップに進むというソフトウェアとして皆さんの中に脈々と息づいています。皆さんが東北大学で育み修得した基盤は、これから皆さんが世界に大きく羽ばたき力強く活躍するための確固とした基盤となるものと確信しています。

【東北大学コミュニティーの一員として】

これから皆さんは、本学を巣立ち、社会へ、そして広く世界に向けて船出することとなります。東北大学には、全学同窓会である「東北大学萩友会」があり、日本各地に、そして海外にも多くの同窓会が設立され、さまざまな活動が活発に行われています。皆さんは、これからも東北大学コニュニティーの一員として、母校である東北大学とともに社会の発展に向けて貢献していただければと思います。

【留学生へのメッセージ】

本日は、東北大学で学んだ多くの留学生の皆さんも、本学を卒業する晴れの日を迎えました。ここで、日本語を母国語としない卒業生のために、英語でお祝いの言葉を述べたいと思います。

I would like to take this opportunity to address our non-Japanese-speaking graduates and congratulate you on your successful graduation.

The year 2022 marks the 115th anniversary of Tohoku University's founding. It has also been 100 years since the inclusion of humanities and social sciences as part of our faculty, marking the start of our history as a comprehensive university.

Tohoku University is renowned for its outstanding achievements in technological innovation as well as humanities and social science. For instance, Judge Shigeru Oda, who was Tohoku University Professor of international law, contributed greatly to the peaceful settlements of international disputes to serve as a Judge of the International Court of Justice in the Hague, the Netherlands.

Our 'Research First' principle called upon scholars to pursue highly creative studies and we nurtured a tradition of the creation of social values in which the results of cutting-edge research are being put to use for the good of society. These principles and the "open door" policy in which we strongly believe in the value of "diversity" remain very much intact today as we strive to become one of the world's great research universities.

But our most powerful assets are our students, our researchers, our staff, the people in our community, and you, our graduates. You are playing a vital role in providing expertise, support, and inspiration, not only to current but also future members of Tohoku University.

Please keep in mind that today is not the end of the relations you formed over the years with your friends and family here at your university. Our alumni association 'Shuyukai' has created a global community of Tohoku University graduates to stay in touch and - most importantly - help each other in difficult times. You are always welcome, and you will always be appreciated.

Congratulations on your graduation, all the best for your future, stay safe, and see you again soon.

皆さんが、これから世界に向けて大きく飛躍されることを心から期待して、私の式辞といたします。本日は、誠におめでとうございます。

令和4年3月25日


東北大学総長

大野 英男


里見進前総長メッセージはこちらよりご覧ください。

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