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令和6年3月年学位記授与式

本日ここに、東北大学から晴れて学士、修士、専門職、博士の学位を授与された皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。

また、この間、皆さんが晴れてこの日を迎えることを心待ちにし、皆さんをさまざまな形で支えていただきましたご両親、ご家族、そして関係者の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。

本日の学位記授与式は、多くの皆様が一堂に会する形で開催しています。新型コロナウイルス感染症の影響が始まる前の2019年以来5年ぶりです。また、皆さんの門出をお祝いする方々に、全国から、また世界中からこの晴れの舞台をご覧いただけるよう、本式典の模様は本学のホームページで配信しています。

皆さんの東北大学での勉学や研究、そして日常生活は、コロナ禍によりさまざまな制約を受けました。しかし、このような厳しい環境の下でも、日々たゆまぬ努力を重ねて勉学や研究に励み、学位の取得という目標を達成して本日晴れの日を迎えた皆さんに、東北大学を代表して深く敬意を表するとともに、その努力を心から称えたいと思います。

東北大学の歴史と「国際卓越研究大学」の唯一の候補校であること

東北大学は、この「杜の都」仙台の地に、東京と京都に次ぐ第三の大学として1907年に創設されました。1922年には、それまでに開設されていた理学部、医学部、工学部に加えて法文学部の開設が決定され、総合大学としての発展の基盤が築かれました。東北大学は、開学以来、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念を基盤として、世界をリードする研究成果をあげるとともに、多くの指導的人材を世界に輩出してきました。

皆さんもご承知の通り、東北大学は、昨年9月に「国際卓越研究大学」の唯一の候補校となり、現在最終認定に向けて審査が進められています。「国際卓越研究大学」とは、日本を先導する世界最高水準の研究大学を支援強化するための全く新しいプログラムです。これまでの研究大学の枠組を大きく変革し、世界の有力大学と国際的な舞台で伍して人類社会の発展に貢献する卓越した大学の実現を目的としています。今回、東北大学が最終候補となったことは、私たち構成員が一丸となって世界に向けたプランを打ち出し、それを推進していく確固とした決意を示したことが評価されたものです。私たちがその拠って立つ基盤として重視したものは、本学が「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の理念を脈々と受け継ぎ、それぞれの時代と社会の変化に応じて絶え間なく発展させてきた117年にわたる歴史そのものです。東北大学にとって、この度の国際卓越研究大学への申請は、私たちが日本を代表する研究大学として、これまで以上に自らを律し、社会の負託に応え、日本を牽引していく意思の表明でもあります。

東北大学の理念に照らして――未来に向けた変革を考える

初代総長の澤柳政太郎は、本学の最初の入学宣誓式において、「我東北大学はこの点(「学術の研究」を最も重視する点)に於いてはいずれの大学にも退けを取らざるの覚悟なり。」と述べています。東北大学は発足当初から「研究」大学として自らを定義していたのです。

第1回文化勲章を受章した本多光太郎第6代総長は、基礎物理学の研究に基づき当時世界最強の磁石「KS鋼」を世に出しました。以来、本学の関係者は多くの高性能磁石を生み出しており、今日最強のネオジム磁石も本学で学んだ佐川眞人博士が発明したものです。磁石が風力発電などの再生可能エネルギーやモーターに使われることはよく知られています。また、21世紀はデータの世紀と言われますが、その基盤にも東北大学は大きな貢献をしています。文化勲章を受章された岩崎俊一名誉教授の発明である垂直磁気記録方式のハードディスクドライブと舛岡富士雄名誉教授の発明したフラッシュメモリは、AIとデータの世紀である21世紀を支える基盤となっています。

本学は性別や国籍、出身校などにかかわらず広く優秀な学生に門戸を開放するという「門戸開放」の理念を一貫して貫いてきました。今から111年前の1913年に、当時の我が国の大学としては初めて、3名の女子学生に入学を認めました。化学を専攻した黒田チカは、日本を代表する女性科学者としてその後長く学界の第一線で活躍しましたし、丹下ウメは40歳で化学科に入学し、卒業後はアメリカに留学して博士号を取得しました。昨年、本学は 女子大学生誕生110年記念式典を開催し、このような「門戸開放」の歴史を振り返り未来へ向けたさらなる飛躍を誓いました。

「実学尊重」は、現代的に言い換えれば、人類に貢献する新たな社会価値を生み出すことを意味します。二つ例を挙げます。まず一つ目は、13年前の東日本大震災の経験を通して創り上げてきた「災害科学」という総合的な知の体系です。災害科学というと、皆さんは、災害のメカニズムを明らかにする自然科学の一分野のように思われるかもしれません。しかし、一連の災害サイクルに目を向けると、発災時の緊急対応、その後の復旧・復興、さらには、より強靱な社会のデザインなど、人文社会科学を含む広範な知識の統合が求められます。この災害科学の成果は、国際アジェンダや標準規格の策定などを通して大きく世界に波及しています。

もう一つは、海洋法です。文化勲章を受章された小田滋名誉教授は、1960年代に世界に先駆けて法的概念としての「大陸棚」を提唱し、それが今日の制度の基礎となって、現在、大陸棚境界画定の重要な原則として世界中で用いられています。

東北大学は、日本を代表する研究大学としてこのような新たな社会価値創造の担い手であり続けてきました。

21世紀を生きる卒業生・修了生への言葉

皆さんが生きる21世紀は、巨大データとAIの時代です。本学では巨大データの中から見出された「相関関係」から、数理的に「因果関係」を抽出する研究が進められています。そもそも「因果関係」とは何か、哲学者も加わった議論も発展しています。一方、新たなデータを生み出す生成AIの進化はとどまることを知らず、その社会活用と並行して、倫理的・法的な枠組みの議論が世界で沸騰しています。本学では、昨年、国内最大級の自然言語処理グループを中心として「東北大学言語AI研究センター」を設置し、全学の力を結集しつつ生成AIの研究に取り組んでいます。なぜ、大規模言語モデルが知的なふるまいをするのか、生成AIさらにはその先の汎用AI(AGI)の進化には限界がないのか、AIの莫大なエネルギー消費を解決する方法はあるのか、そもそもAIに照らして私たちの「知」とは何なのか、など根源的な問いが議論されています。

今後、私たちの社会も、そして「科学」も、AIとともに「共進化」し大きく変わる時代が到来するでしょう。言語のデータ化によって人文社会科学が、生体のデータ化によって生命科学が、星のデータ化によって天文学が、と言ったように、ありとあらゆる科学が変容し、データで統合された知が大きな価値を紡ぎ出していくはずです。

一方、世界には地政学的な対立や気候変動など、困難な課題が山積しています。日本においては新たな人口構成に対応した仕組みづくりが喫緊の課題です。皆さんの生きるのはそのような時代です。ぜひ、これからも、専門分野を超えた幅広い領域での総合的で学際的な知識と素養を磨き続けてください。本日、この東北大学を巣立つ皆さんには、すばらしい未来社会の構築のため、それぞれの分野で世界に、そして社会に貢献していっていただきたく思います。

東北大学の片平キャンパスには東北大学正門から東西に続く「赤松」の並木があります。今から約100年前の法文学部の開設を記念して整備が始まりました。北門から南北に延びる「黒松」の並木は、本学の創立25周年を記念して整備が開始されました。片平キャンパスの南北に連なる見事な松並木は、本学の総合大学としての発展を見守ってきたのです。

1957年の本学創設50周年には、同窓生など多くの方々からの寄附をもとに、東北大学川内記念講堂(現在の川内萩ホール)が川内キャンパスに整備されました。その前後の時期に、日本の「家族法の父」と呼ばれた法学部の中川善之助教授を記念する「中善並木」の桜の植樹が進められ、毎年入学の時期に美しい桜並木が花を咲かせています。星陵キャンパスでも、ギリシアのヒポクラテスがその木の下で「医の道」を説いたというスズカケノキ(プラタナス)が同窓生によって植樹され、「ヒポクラテスの木」として今では大樹となっています。

また、来月稼働する次世代放射光施設ナノテラスが所在し、本学サイエンスパークの主要な舞台となる青葉山新キャンパスには、1960年のローマオリンピックに日本代表として出場した本学漕艇部出身の同窓生のご寄付による桜の苗木の植樹が2018年に行われ、桜並木へと成長しつつあります。

このように、皆さんが在学中に通った東北大学の各キャンパスには、それぞれかつての同窓生や関係者の「思い」が詰まった木々が茂り、花々が咲き誇り、その「思い」が次の世代に伝えられています。本日東北大学を卒業・修了する皆さんは、今までも、そしてこれからも、東北大学コミュニティそして全学同窓会「萩友会」の重要なメンバーです。今後も、この東北大学の一員としての誇りを胸に、未来に向けて飛躍していってください。

留学生へのメッセージ

本日は、東北大学で学んだ多くの留学生の皆さんも、本学を卒業・修了する晴れの日を迎えました。ここで、日本語を母国語としない卒業生・修了生のために、英語でお祝いの言葉を述べたいと思います。

I would like to take this opportunity to address our non-Japanese-speaking graduates and congratulate you on your successful graduation.

Last September, the Japanese government selected Tohoku University as the only final candidate for the "Universities of International Research Excellence" Program. We are working together for the final accreditation, but this process itself already means that Tohoku University is recognized as a top research University in Japan and on the world stage.

Tohoku University has been standing for outstanding research and innovation. This excellence in academia includes practical implementations, the responsibility to help communities through the scientific discourse, and fostering the next generation of leading scholars.

"Open Doors," one of our three founding principles, does not just mean welcoming people as they are. It is our emphasis on freedom, openness, and equality. We are proud to be a university of academic excellence that is progressive, inclusive and strongly engaged in diversity for more than a century.

When you graduate today, it is not the end of the relations you formed over the years with other university members. Today marks the beginning of a new collaboration between equals. You are all important, valued members of the Tohoku University community. Undoubtedly, all of you will contribute to future innovations to support communities and make them sustainable both at home and abroad.

Our alumni association 'Shuyukai' has created a global community of Tohoku University graduates to stay in touch and - most importantly - help each other in difficult times. You are always welcome, and your collaboration will always be appreciated.

Congratulations on your graduation, all the best for your future, stay safe and see you again soon.

結びの言葉

皆さんが、これから世界に向けて大きく羽ばたかれることを心から期待して、私の式辞といたします。本日は、誠におめでとうございます。

令和6年3月26日


東北大学総長

大野 英男

これまでのメッセージ

令和4年度以前のメッセージはこちら

講演動画(YouTube配信)


里見進前総長メッセージはこちらよりご覧ください。

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