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令和5年3月東北大学学位記授与式告辞

【はじめに】

本日ここに、晴れて学士、修士、専門職、博士の学位を授与された皆さん、おめでとうございます。東北大学を代表して、心よりお祝いを申し上げます。

また、この間、皆さんがこの日を迎えることを心待ちにし、皆さんをさまざまな形で支えていただきましたご両親、ご家族、そして関係者の皆様にも、心よりお慶びを申し上げます。

本日は、卒業生及び修了生のみが出席していますが、式典の模様は本学のホームページで配信しています。皆さんの門出をお祝いするご家族をはじめとする多くの方々に、本日のこの晴れの舞台をご覧いただいているものと思います。

新型コロナウイルスの感染が拡大し、3年以上が経ちました。東北大学では来月からマスクなしの日常へと舵をきることとなりますが、この3年間、皆さんの勉学や研究、そして日常生活は、さまざまな制約を強く受けました。しかし、皆さんは、厳しい環境の下で、日々たゆまぬ努力を重ねて勉学や研究に励み、本日の晴れの日を迎えました。学位の取得という目標を達成された皆さんに、東北大学を代表して深く敬意を表するとともに、その努力を心から称えたいと思います。

【東北大学の歴史と「実学尊重」の現代的意義】

さて、東北大学は、この「杜の都」仙台の地に、東京と京都に次ぐ第三の総合大学として1907年に創設されてこの方、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」の三つの理念を掲げ、世界をリードする研究成果をあげるとともに、多くの指導的人材を世界に輩出してきました。1922年には、それまでに開設されていた理学部、医学部、工学部に加えて、法文学部の開設が決定されました。人文社会系を含めた「総合大学」としての100年の歩みを記念して、本学の人文・社会科学系研究科・センターは、「日本学」の国際ネットワーク「支倉リーグ」の主だった首脳と共に、多様性を尊重した学術交流や地球規模の課題に立ち向かうことなどを骨子とした21世紀の方針を「支倉宣言」としてまとめ発出しました。

本日は、三つの理念のうち「実学尊重」について述べたいと思います。「実学尊重」は現代的に言えば、社会価値の創造です。しかし、誤解を恐れずに言えば、そもそも科学や技術は「価値」に対して中立です。科学と技術の意味や目指すべき方向性には、それらの外にあります。その意味で、理工学、生命科学を学んだ人にも、人文社会科学を学んだ人にも、等しく価値の源となる総合的な「知」、「総合知」が求められるのです。本学の理念である「実学尊重」とは、東北大学が総合知をもって社会価値を創造し、社会全体をより豊かにしていくことを意味するものなのです。

「実学」と言えば、人工知能やAIといった言葉を耳にしない日はありません。本学においても、言語処理やロボティックス、量子コンピューティングのAI応用、あるいは大学病院におけるAI人材育成や卓越大学院プログラムなど、多彩な研究と人材育成の取り組みが行われています。

そもそも多くのAIが対象とする巨大なデータは、ハードディスクドライブやフラッシュメモリに蓄えられていますが、これらの装置・デバイスは特別栄誉教授の岩崎俊一先生をはじめとする本学関係者の研究成果に基づくものであることは特筆に値します。

新たなAIの展開により、AIがさまざまな質問や疑問に対して回答を用意してくれることを誰もが実感できるようになりました。人の職業を奪うと喧伝されることも多いAIですが、自動運転や、AIとロボットを組み合わせた機器の実用化は、急な人口減少を迎え、働き手が不足する日本においては、より快適で幸福な未来社会を築くための有効な手段となります。もちろん、このような新しい技術の飛躍的発展は、倫理的、法的な新しい課題を人類全体に投げかけます。

皆さんは、AIによって大きく変化する社会の担い手となります。そこでは、専門分野を横断する学際的な知見と素養、すなわち先に述べた「総合知」が重要となります。東北大学を巣立つ皆さんはこのような「総合知」を十分に育まれたものと思います。自信をもって社会の担い手として道を切り拓いて行ってください。

【東日本大震災の記憶と教訓 ―レジリエントな世界の構築へ向けて】

今月、われわれは東日本大震災から12年を迎えました。この東日本大震災の記憶は、本学の長い歴史の中でも忘れることのできないものです。東北大学は、今年、第3回となる世界防災フォーラムを仙台で開催し、多くの関係者とともに、レジリエントな世界の構築に向けた提言を国連防災機関(UNDRR)に提出しました。これは、2015年に採択された「仙台防災枠組2015-2030」に対し、現在行われている国連の中間評価に貢献するものです。また、東北大学は、環太平洋地域の主要大学が加盟する環太平洋大学協会(APRU)のマルチハザード・プログラムのハブ大学として、レジリエントな世界の構築に向けた教育研究と社会実装のための国際連携の中心としての重要な役割を10年にわたり務めてきました。加えて、2021年にグリーン未来創造機構を設置し、2015年に採択された世界の三大アジェンダ、すなわち仙台防災枠組、SDGsとパリ協定の目標実現に向け、多くのステークホールダと協働して研究成果の社会実装を行っています。このような人類社会の重要なグローバルアジェンダの解決に向けた本学のさまざまな取組は、「社会とともにある大学」として116年の歴史を歩んできた東北大学の理念、研究成果をより良い世界の構築に向けて社会に貢献するという本学の「実学尊重」に深く根差した活動なのです。

【学生の活躍と社会からの評価】

さて、最近の学生諸君のさまざまな分野での活躍には、目を見張るものがあります。とりわけ、全国の主要国立七大学の体育部が多くの競技種目で熱戦を繰り広げる全国七大学総合体育大会(いわゆる七大戦)で、東北大学は昨年総合優勝を遂げました。新型コロナウイルス感染症の影響で大会が中止された2022年と2021年をはさんで、本学は史上初の四連覇を果たしました。過去8回のうち実に7回にわたり、本学は総合優勝を遂げているのです。また、昨年8月に琵琶湖で行われた人力プロペラ機の「鳥人間コンテスト2022」では、本学学友会人力飛行部の東北大学ウインドノーツが優勝を果たしました。本学の学生諸君が、さまざまな分野で目覚ましい活躍を行っていることは、本当に素晴らしいことだと思います。

学生諸君の活躍ぶりを紹介しましたが、東北大学は、その教育、研究、社会貢献など多くの分野において、社会から高い評価を得ています。昨日発表されたタイムズハイヤーエデュケーション(THE)日本大学ランキング2023年版で第1位の評価を受け、4年連続で1位となりました。本学の教育に関する取り組みが高く評価されている一つの証と考えています。

【東北大学コミュニティの一員として】

皆さんが在学中に通った東北大学の各キャンパスには、それぞれかつての同窓生や関係者の「思い」が詰まった木々が茂り、花々が咲き誇り、その「思い」が次の世代に伝えられています。ぜひ一度意識して見てみてください。本日卒業・修了する皆さんは、今までも、そしてこれからも、この「思い」を共有する東北大学コニュニティの重要なメンバーです。今後も、この東北大学の一員としての誇りを胸に、未来に向けて飛躍していただければと願っています。

【留学生へのメッセージ】

本日は、東北大学で学んだ多くの留学生の皆さんも、本学を卒業する晴れの日を迎えました。ここで、日本語を母国語としない卒業生のために、英語でお祝いの言葉を述べたいと思います。

I would like to take this opportunity to address our non-Japanese speaking graduates and congratulate you on your successful graduation.

Tohoku University is renowned for its outstanding achievements, notably in technological innovation and practical application of scientific findings.

Our 'Research First' principle called upon scholars to pursue highly creative studies and we nurtured a tradition of the creation of social values in which the results of cutting-edge research are being put to use for the good of society. The "Open Door" policy which we strongly believe in and the value of "diversity" remains very much intact today.

Just this month, the third World Bosai Forum was held in Sendai, bringing together international experts in the field of disaster risk reduction from all over the world. The event aims to draw lessons from the Great East Japan Earthquake and Tsunami of 2011 and develop solutions for disaster mitigation.

In line with Tohoku University's tradition of "Practice Oriented Research and Education", this was also an opportunity for us to reaffirm our mission to support communities both at home and abroad in order to realize a more sustainable future, and report on the progress we made in disaster science.

However, our most powerful assets are, of course our students, our researchers, our staff, the people in our community and you, our graduates. Please keep in mind that today is not the end of the relations you formed over the years with your friends and family here at Tohoku University.

Our alumni association 'Shuyukai' has created a global community of Tohoku University graduates to stay in touch and - most importantly - help each other in difficult times. You are always welcome, and you will always be appreciated.

Congratulations on your graduation, all the best for your future, stay safe and see you again soon.

【結びの言葉】

皆さんが、これから世界に向けて大きく飛躍されることを心から期待して、私の式辞といたします。本日は、誠におめでとうございます。

令和5年3月24日


東北大学総長

大野 英男


里見進前総長メッセージはこちらよりご覧ください。

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