灼熱のロケット・マン
いまだ誰も——NASAやJAXAすら——
していない、世界初の挑戦です。
研究について簡単に教えてください。
宇宙探査とロケット推進に関する研究です。ロケットは、燃料の酸化反応により変換されたエネルギーによって推進します。その燃焼について研究しています。
この分野に興味を持った経緯は?
はじめは、ただ、空を見上げていました。最初に興味を持って見ていたのは天気で、やがてその視線はもっと先へもっと先へと延びていき、ついには地球を超え宇宙にまで辿り着いてしまいました(笑)。「宇宙旅行と宇宙探査に貢献したい」という想いが強くなり、この道に進みました。宇宙空間を推進するスラスタの研究開発というのは、自分の仕事の意義を感じやすく、大きなやりがいがあります。
ElevationSpace社との共同研究はどのように始まったのでしょう。
同社の共同創業者である桒原聡文教授からスラスタの共同開発のお話をいただいたのが、2021年のことです。コロナ禍で、すべてがリモートという時期でした。毎週金曜夜にオンラインミーティングをして、ときには土曜の明け方まで続くこともありました。普段の大学業務とは別の時間をやりくりして開発を進めました。
同社と共同開発したスラスタについて教えてください。
固体燃料と固体酸化剤を使用するのが固体ロケットで、液体燃料と液体酸化剤を使用するのが液体ロケットです。これに対して、わたしたちのハイブリッドロケット(スラスタ)は、固体燃料と気体/液体酸化剤とを組み合わせて使用します。固体燃料は本質的にレジ袋と同じプラスチック素材で、安全性と経済性が非常に高いのが特長です。
ハイブリッドスラスタは新しい技術で、このタイプの推進装置を搭載した人工衛星が宇宙へ送られたことはまだ一度もありません。来年、私たちのハイブリッドスラスタが世界で初めて宇宙へゆく予定です。これまでにまだ誰も——NASAやJAXAでさえも——していない挑戦であり、東北大学が世界初です。ここまでの試験結果は順調で、実際に稼働する姿を見るのがとても楽しみです。
その開発過程はどのようなものでしたか?
困難なものでした。世界初のことであり、参照できるものがありません。開発上の最大の課題となったのは熱を遮断することで、これはハイブリッドスラスタゆえに陥りやすい問題です。燃焼温度は3000K(ケルビン)(摂氏2700度以上)という高温に達するので、燃焼室が溶けてしまわないよう保護しなければなりません。そのための断熱補強を施しつつ、しかも重量増加は避けなければならず、絶妙なバランスが求められました。
Image courtesy of Tohoku University and Studio Xxingham
Image courtesy of Tohoku University and Studio Xxingham
ユニークな組織体制である
学際科学フロンティア研究所(FRIS)について教えてください。
FRISにおける若手PI育成の取組みは、国際卓越研究大学(UREX)の戦略の一つの柱とされているほか、先端的学際研究の推進をミッションとしており、分野によって縦割りされているということがありません。私の研究室は、天文学や材料科学、化学の研究室と隣り合っており、分野を越えた共同研究がすぐにはじめられる環境にあります。
さらにFRISは、年長の研究者が研究室全体の意思決定をするような一般的な日本の研究体制とは異なります。私は33歳で、一般的には若手とされる年齢。にもかかわらず、FRISではすでに自分自身で研究室を率いる研究ユニット主宰者(PI)を務めています。自分が何を研究し、どのプロジェクトに取り組むのか、自分自身で決めることができます。PIはそれぞれが強い関心を持つ研究に取り組む自由を持っているので、独自の研究スキルを存分に発揮できるのです。
息抜きにはどんなことをしますか。
野球が大好きです。かつてはピッチャーでした。高校時代に肩を壊してソフトボールに転向し、国体(現在は国民スポーツ大会)には2度出場しました。甲子園など高校野球を見るのもすごく好きです。まだ幼い娘がいずれ大きくなったらソフトボールを教えたいと思っているのですが、妻は日焼けが心配のようです(笑)
写真:燃焼試験後のロケット燃料。複数回にわたる燃焼試験の結果から、燃料とロケットの設計が決定された。
齋藤 勇士
ずっと空を見上げてきた。雲や気象の変化を見つめていた視線は、宇宙の広大さに心奪われるにつれ、さらに高く、遠くなっていった。宇宙探査に貢献するという強い想いに突き動かされて、北海道大学に学び、同大学工学部、同大学院工学院を修了。2021年、29歳で東北大学に着任し、学際科学フロンティア研究所(FRIS)を経て2026年4月より大学院工学研究科准教授。研究ユニット主宰者(PI)として独立した研究室を率いている。また同年1月からは、グリーン未来創造機構スペースクロステック研究センター 先端宇宙推進技術研究部門・部門長を兼任している。
現在、ロケット内部の推進工学および推進システム開発を中心に研究を進めている。その研究は基礎科学を確かな土台としながら、宇宙探査に直結する実用性を備えている。ElevationSpace社との世界初ハイブリッドスラスタ宇宙実証の準備を進めるなど、産業界との共同研究を多数行う一方、査読付き論文を毎年発表し、複数の特許も出願。旺盛な好奇心を推進力として、大きな志を胸に飛び立とうとしている、若き研究者である。

Translation: Takashi Nakamura
Romance
of
Research