TOHOKU UNIVERSITY

The
Romance
of
Research
Kimi
Akai

赤井 紀美

東北大学大学院
文学研究科 日本学専攻 准教授

専門分野:日本演劇・芸能

研究テーマ:文学と演劇の領域横断的研究、
歌舞伎・新派、文学作品の劇化、メディアミックス

この世は
すべて舞台

演劇と文学は、時代を映す鏡。
当時の人々がどう生き、何を感じていたのか、
そのすべてが、本や芝居の中に
息づいています。

ご自身の研究について教えてください。

江戸時代から近現代に至るまでの、日本の演劇と文学が交わる領域を研究しています。中心に据えているのは「歌舞伎」と「新派」という演劇形態で、どちらも、大勢の観客を集めてきた人気の商業演劇です。文学作品がどのように演劇化されてきたのか、物語を新しい形に作り変えていく「メディアミックス」の実践に注目しています。また、近年では新劇とよばれる日本の近代劇や、ラジオやテレビなどの放送についても興味をもって研究しています。

日本の演劇を理解し、楽しむための鍵は何でしょうか。

昔の演劇や文学は縁遠く感じられて、「自分には関係ない」と思われがちです。でも、演劇と文学は、それが生まれた時代を映す鏡です。当時の人々がどう暮らし、何を感じ、どんな人生を送っていたのか。そのすべてが本や芝居の中に息づいています。
作品に自分を重ねてみると、意外なほど身近に感じられる部分があることに気づくはずです。完全には理解できない部分があったとしても、時間を遠く隔てた人々と、響き合い、つながり、心惹かれる。それこそが文化の力だと思います。

新派になじみのない読者に、どんな演劇なのか教えていただけますか。

新派は、歌舞伎の影響を受けて明治時代に生まれた演劇のひとつです。新聞の連載小説を舞台化して人気を集めた形式で、その成り立ちゆえに、明治以降のいわゆる「近代」の世相をまっすぐに映し出しています。当時の人々は、新派を観て涙し、歓喜し、その魅力に惹き込まれました。明治・大正・昭和の人々の心を何が動かしたのかを知りたければ、新派が教えてくれます。その人気は舞台を超えて広がり、映画をはじめ、玩具や流行歌に至るまで、あらゆる文化に大きな影響を与えました。

最近では、新派について
歌舞伎ほど触れる機会が多くないのはなぜでしょうか。

歌舞伎には400年を超える歴史があります。江戸から明治以降に至るまで、日本の文化の原動力であり続けてきました。映画が登場する以前、演劇は日本において主要な文化メディアで、歌舞伎は常にその中心にありました。
歌舞伎は長い歴史の中で幾度となく存続の危機に直面してきましたが、そのたびに時代に合わせて姿を変えながら、観客の支えを受けて生き延び、時には大きく発展してきました。そして、近年ではまた若手俳優が次々と活躍するようになり、歌舞伎は再び注目を集める存在となっています。

Untitled (A Researcher in Sendai #2617), 2026. ©︎ Gottingham.
Image courtesy of Tohoku University and Studio Xxingham
Untitled (A Researcher in Sendai #2689), 2026. ©︎ Gottingham.
Image courtesy of Tohoku University and Studio Xxingham

この分野を研究しようと思ったきっかけは何ですか。

日本のテレビの刑事ドラマが大好きなんです。事件が起きて、謎が解き明かされ、犯人が泣き崩れて自白する。子どもの頃からあの型が大好きでした。やがて小説も好きになり、ずいぶんたくさん読みました。
新派も歌舞伎もまた、観客が舞台を理解しやすいように、ある種の型や枠組みに沿ってストーリーが進みます。そういう作品は、文学や芸術の世界では、大衆向けのいわゆる「俗っぽいもの」として軽んじられることが少なくありません。でも、毎シーズン、何年、何十年と作られ続ける刑事ドラマの数を見てください。人間は、型に惹かれる生き物なのです。新派も歌舞伎も、型を受け継ぎながらそこに新しさを吹き込み、決まった形式の中から新しいものを生み出してきました。
型を踏襲していく表現分野は一部の芸術界では見下されがちですが、本当は、みんなが大好きなものなのです。私が愛するこれら表現には確かな価値がある——それを知って欲しいという気持ちが、研究のいちばんの原動力だと思います。

お気に入りの舞台作品を教えてください。

新派の演目の中で私が特に好きな作品は『金色夜叉』です。尾崎紅葉が新聞に連載した小説で、新派の舞台になり、映画化され、流行歌にもなりました。熱海の海岸には銅像まで立っているんですよ。
この作品が、私の研究の出発点でした。尾崎紅葉は明治時代に絶大な人気を誇った作家です。ところが彼の小説を調べ始めてみると、『金色夜叉』を小説としてではなく、芝居や映画で知っている人のほうがずっと多いことに気づきました。この発見が、メディアミックスの研究へと私を導いてくれたのです。

今も純粋な娯楽として演劇を楽しんでいますか。

楽しんでいますよ。ただ困ったことに、舞台を見ていると、つい何もかも分析してしまうんです。頭のスイッチが切れなくて。ですから最近は、新派や歌舞伎よりも落語や講談を見るのが息抜きになっています。もちろん、毎シーズンごとに放送される刑事ドラマも見ています。また、息子たちと過ごす時間も楽しみの一つです。小学生の双子なのですが、思わず笑ってしまうような話や、思わぬ視点が次々と出てきて、いつもはっとさせられます。

写真:戦前の歌舞伎のブロマイド写真、歌舞伎・新派の筋書(プログラム)。

Kimi Akai
赤井 紀美

赤井紀美准教授は、群馬県で生まれ、幼少期は旅行会社に勤務していた父親の仕事の関係で日本各地やシンガポールを転々として過ごしました。母に連れられて観劇に親しみ、祖母から能の手ほどきを受けて、幼い頃から演劇への愛を育みました。日本女子大学を卒業し、学習院大学大学院人文科学研究科博士後期課程を経て、早稲田大学にて博士(文学)取得。早稲田大学坪内博士記念演劇博物館では、助手・助教として展示企画を手掛け、近世から近代の商業演劇の研究に携わりました。2024年4月からは東北大学の准教授として、教壇に立つ仙台と、夫とふたりの息子が暮らす東京とを行き来しながら研究を続けています。

Text: Melissa Heng
Translation: Mindy Takamiya
The
Romance
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