第4章
男女共同参画の歩み

一人一人の思いを紡ぐ道

東北大学では昭和24年(1949)の新制大学発足と共に41名の女子学生が入学。戦前には見られなかった医学部や工学部などの学部に入学する女性も徐々に増えていきます。しかし、それでも女子学生と女性研究者の数は少なく、圧倒的にマイノリティであることは変わりませんでした。ところが、1999年「男女共同参画社会基本法」が作られたことによって、変化の風が吹き始めます。ここでは、これまでの本学の男女共同参画の歩みを紹介します。そして、中でも特に先駆的取り組みだった本学の3つの事業について、当時を振り返ってみます。

年表

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輝く女性研究者活躍推進賞

2001年から本格化した男女共同参画の歩みにより、1992年4.6%だった女性教員(助教、助手、クロスアポイントメント、業務委託含む)比率は、2022年19.7%となりました。そして、これまでの取り組みが認められ、2022年11月6日国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)から第4回輝く女性研究者活躍推進賞(ジュンアシダ賞)をいただきました。思いを紡ぐ人々がいたから来られた道。今我々は、新しいステップとしてより多様な人の思いをつなぎ、皆が働きやすい大学を目指して、新たな幕を紡ぎ始めています。

11月6日、日本科学未来館で開かれた授賞式

11月6日、日本科学未来館で開かれた授賞式
(左からJST橋本和仁理事長、大隅典子副学長)

受賞を喜ぶ大野総長と男女共同参画推進センターの関係者

受賞を喜ぶ大野総長と男女共同参画推進センターの関係者
(左から田中真美センター長、大野英男総長、
大隅典子副学長、李善姫講師)

3つの“つなぐ”

本学が先駆的に実施した法学研究科
COE & GCOE、病後児保育、次世代育成、
これら3つの取り組みについて紹介します。

「性差」の研究拠点として
世界をつなぐ10年

「男女共同参画社会の法と政策
ジェンダー法・政策研究センター」
「グローバル時代の
男女共同参画と多文化共生」

世界最高水準の研究教育拠点形成を目標として、文部科学省が2003年に「21世紀COEプログラム」の公募を始めました。当時東北大学男女共同参画委員会副委員長をしていた辻村が拠点リーダーとなって応募し、文理融合の学際的国際的研究として東北大学「男女共同参画社会の法と政策 ジェンダー法・政策研究センター」拠点が採択されたのです。当時は国立大学の女性研究者比率が極めて低く、学界でもまだジェンダー問題は殆ど知られておらず、審査員からも「ジェンダーなんて、そのどこが科学なのですか。ジェンダー法学なんて学問ではない」などという発言があったほどでした。
 ところが、21世紀COEでは、ジェンダー法政策研究叢書全12巻を東北大学出版会から刊行し、国際シンポジウムを幾度も開催するなど一気に国際的な拠点になりました。また、2008-2013年のグローバルCOE(「男女共同参画と多文化共生」拠点)では、博士課程のダブルディグリー制度を確立して国際交流を一層拡大しました。10年間、とくに文系分野における東北大の国際的評価向上に貢献でき、ジェンダー法分野を確立し、ダイバーシティに関連しても先駆的な成果を出すことができました。皆さんのご協力の賜物であり、支えてくださった皆さんに心底から感謝しています。

辻村みよ子
(ジェンダー法政策研究所共同代表・
東北大学名誉教授)

男女共同参画社会の法と政策ジェンダー法・政策研究センター グローバル時代の男女共同参画と多文化共生
10年間拠点リーダーを務めた辻村みよ子先生

10年間拠点リーダーを務めた
辻村みよ子先生

2004年11月4日-5日仙台国際センターで開催された国際シンポジウム

2004年11月4日-5日
仙台国際センターで開催された国際シンポジウム

21世紀COE・グローバルCOE10年間に刊行した書籍

21世紀COE・グローバルCOE10年間に刊行した書籍

みんなの思いを紡ぐ
全国初の
「大学病後児保育室・
星の子ルーム」

星陵地区(大学病院や医学系研究科がある地区)には、75年以上の歴史をもつ教室員会という組織があります。病院や医学系研究科の教授以外を構成員とし、星陵地区における診療・研究・教育の問題を討議し、福利厚生・スポーツを通じた交流や情報発信などを行なってきました。1998年に討議されたのが保育問題でした。会員アンケートの結果、保育園よりも病児保育が必要だと明らかになったので、病児保育施設設置に向けて活動が開始されました。病院長はじめいろいろな立場の方々の協力のおかげで、2001年に全国の大学で初の病児保育室がスタートしました。
 発足当初は教室員会が主となって運営する任意団体であったため、教室員会、看護部同窓会、宮城県女医会からの寄付でフルタイムの看護師とパートタイムの保育士を雇用し、病児を星陵地区限定で受け入れることからスタートしました。しかし、常に人手不足で、たびたび閉室していたのです。その状況が大きく変わったのは2006年。この年に大学病院の運営となり、さらに本学が進めた「杜の都女性研究者ハードリング支援事業」の環境整備プログラムに参加したことで、財源が安定し、規模と対象(全キャンパスからの利用)が拡大されました。「星の子ルーム」という愛称もこの年から使われています。設置から21年、「星の子ルーム」はたくさんの病児・病後児に利用されており、仕事を休めない子育て中の教職員・学生の皆さんのお役に立っているものと思います。「星の子ルーム」の活用が皆さんの発展につながれば幸いです。

石井恵子
(東北大学大学院医学系研究科元准教授・
現非常勤講師)

星の子ルーム
病後児保育施設の設置に関わった石井恵子先生

病後児保育施設の設置に関わった
石井恵子先生

大学病院内に設置された星の子ルーム

大学病院内に設置された星の子ルーム

星の子ルームの遊び道具

星の子ルームの遊び道具

「サイエンス・エンジェル
(現サイエンス・アンバサダー)」
科学の楽しさを伝える・
女性研究者としてつながる

「サイエンス・エンジェル(現 サイエンス・アンバサダー)(通称:SA)」は、科学の楽しさを一般市民や若い世代に伝えるメッセンジャーという役名で、2006年全国初の理系の女子大学院生の組織としてスタートしました。以後小中高への出張セミナー、科学イベント、オープンキャンパスでの説明会、シンポジウムなどの各種のイベントなどで活躍。創設から16年が経過した現在は、「科学大使」という意味の「サイエンス・アンバサダー」に名前を改称、「理系女子」だけでなく、「文系女子」も、また性自認が女性の方も受け入れ、より多様性のある組織として繋がっています。
 実際に活動に参加していた女子大学院生にとってSAはどんな意味をもっていたのでしょうか。創立初期のメンバーたちに当時と今を聞きました。

東北大学サイエンス・エンジェル(現サイエンス・アンバサダー)
高校での出張セミナー

高校での出張セミナー

2008年天文台で行った科学教室

2008年天文台で行った科学教室

コロナ禍でもオンラインで活動しているSA「サイエンス・エンジェルとぴかぴか☆LED手芸~ぴかぴか光るクリスマスオーナメントを作ろう~」

コロナ禍でもオンラインで活動しているSA
「サイエンス・エンジェルとぴかぴか☆LED手芸
~ぴかぴか光るクリスマスオーナメントを作ろう~」

〈 SA OGからのメッセージ 〉

神山千穂

KAMIYAMA CHIHO

2006〜2010年活動
 / 生命科学研究科修了

私は初期メンバーです。修士から東北大に進学したため、同じ年代の院生とつながれることは魅力の一つでした。現在は家族の都合で北海道に住んでいます。北海道の大学で研究員として働きながら、同時に、個人事業を行なっています。SA活動やこれまでの職場を通して多様な人や価値観に接する機会が多くあったことは、学位取得後の様々な選択に影響していると思います。

長濱祐美

NAGAHAMA YUMI

2007〜2008年活動
 / 工学研究科修了

SA活動で親しくなった友達とご飯を食べに行ったりして、その時間がよい息抜きになり、研究も頑張れていたように思います。学生時代には、あまり女性だから大変と感じたことはありませんでした。しかし、結婚、出産となったとき、色々と女性ならではの悩みが出てきます。「結婚で苗字を変えるのをどう思う?」「しばらくは別居状態の結婚生活になるけど大丈夫かな」などは実際にSAの仲間に相談しました。また、SA時代に知った女性達の多様なキャリアが、私の人生の選択の幅を広げてくれたと感じています。

柿崎真沙子

KAKIZAKI MASAKO

2007〜2008年活動
 / 医学系研究科修了

社会人大学院生が多い研究室だったので、年齢が近い人たちとつながるのが楽しかったです。現在は愛知県の大学で、医学教育をメインに業務を行っています。FDや学会のシンポジウムの企画・運営などは、SA時代の経験が役に立っています。また、SAOGのネットワークが全国に広がっているので、出張の時に会ったりするのも楽しみの一つです。

佐藤由佳

SATO YUKA

2007〜2009年活動
 / 理学研究科修了

所属していた物理系は女性比率が低めでした。修士課程時の同期の女性3人は皆就活しており、悩みながら博士課程に進学しました。好きなことを諦めずにいろいろな形で続けている女性の先輩やSAの皆さんとの交流のおかげで、私も自分のキャリアをより柔軟に考えることができるようになりました。今では私も研究者の端くれとなって、埼玉県の大学で共通教育の部門の教員をしています。小中学生向けに出前授業をすることも多く、まさにSA時代の経験が役に立っています。採用時にもSAの経験が1つのアピールポイントになったかもしれません。

文責:東北大学男女共同参画推進センター
李善姫講師