第8章
文系女子学生の誕生と
門戸開放

法文学部の入学規程

1922年に東北帝国大学に文系の学部として法文学部が設置されました。そして翌年からは実際に学生の入学が開始されることになります。法文学部の初代学部長である佐藤丑次郎のもと、1923年1月1日に施行された法文学部規程では、入学資格者を高等学校卒業生以外に以下のように定めていました。「高等師範学校、女子高等師範学校、高等商業学校、外国語学校其の他之と略同等程度の学校卒業者にして本学部の授業に堪ふと認むる者」。ここでは、明確に女子高等師範学校が明記されています。
 すでに東北大学では1913年に3人の女子学生が入学しており、日本で最初の女性の大学生が輩出されていました。しかしこのときの規程は中等教員免許状所有者、という条件において女性の入学が認められていたものであり、厳密には女子高等師範学校の卒業生という条件ではありませんでした。その意味で、法文学部はより明示的に女子の大学入学への門戸を開いた規程を設けたといえます。

1922年設置時の法文学部教室

1922年設置時の法文学部教室

1930年代頃の附属図書館および法文学部1号館

1930年代頃の附属図書館および法文学部1号館

初代学部長の思い

この規程が制定されるまでには佐藤丑次郎法文学部長のなかで考えの変化があったようです。宮城の地元新聞である『河北新報』には当時の佐藤丑次郎の考えが分かる記事をみてとることが出来ます。法文学部が設置される前、1921年4月9日掲載の「女子に対する法文学部の開放」という見出し記事で佐藤は、法文学部に女子学生が入学する上で、「本科学生とするか否やの問題は慎重に考慮を要する点で速断はされぬ」と述べており、当初は慎重な姿勢を示していたようです。その後1922年11月9日の『河北新報』では、法文学部第一回教官会議において、法文学部規程原案の決定がなされる際に、女性への「門戸開放程度」が論議されたことが報道、その翌日付『河北新報』では、佐藤丑次郎は「女子なるが故に大学入学を拒まるべき理由は如何に考へても発見されない」と以前とは異なる積極的な姿勢を示すようになっていました。「寧ろ積極的に正式に女子の為めに門戸を開放するのが道ではないか」とし、「元来東北大学が自由を生命としてゐる。法文学部もこの精神に副ふやうに組織されなければならない」とも発言するに至ります。佐藤は東北大学の理念に深く触れる中で、東北大学の門戸開放の方針に則り、法文学部においても積極的に女子入学を推し進めていくことになったのです。

もっとも、東北大学の法文学部の置かれた事情も背景にあったことは否めません。法文学部第1回入学生は81名でしたが、そのうち正系といわれる高等学校卒業者は26名でした。それ以外の内訳は、高等専門学校・高等師範学校卒業生が51名(後述の女子高等師範学校卒業生2名を含む)となっており、高等学校卒業者を超える割合となっています。いわゆる傍系入学の学生が初期の法文学部の多くを占めていたことが分かります。初期の法文学部は、高等学校卒業者以外からの多様な人材を学生として入学させていくことで、学部の定員と質を確保していったのです。

佐藤丑次郎初代法文学部長

佐藤丑次郎
初代法文学部長

法文学部における
女子学生の誕生

こうした中で、第3章でも紹介しましたように、1923年、法文学部第一期生として入学したのが東京女子高等師範学校の卒業生である久保ツヤ(旧姓黒瀬)、櫻田フサ(旧姓磯貝)の2名でした。彼女たちは、本科生として帝国大学初の文系女子大生となります。両名とも既に母校ほかでの教員経験を持っており、そうした中での大学入学でした。久保、櫻田の入学を受けて、法文学部はさらにその規程の門戸開放を図っていきます。1925年4月1日に施行された「法文学部規程」では、女子高等師範学校に加えて「其ノ他之ト同種同等程度以上ノ専門学校卒業者ニシテ本学部ノ授業ニ堪フト認メタル者」と規程を改正、高等師範学校等と同種同等程度以上の専門学校卒業者にも入学資格が認められるようになったことで、当時学制上専門学校とされていた東京女子大学や、日本女子大学校などからの入学者も増加していくこととなり、法文学部が東北大学における女子学生比率を牽引していくことになるのです(1945年までの間に、東北帝国大学は理系において25名の女子大生が入学したのに対し、法文学部においては104名が入学、第3章参照)。

法文学部卒業生と第7代法文学部長を務めた阿部次郎

法文学部卒業生と第7代法文学部長を
務めた阿部次郎
(写真中央の眼鏡をかけている人物が阿部次郎、
その向かって右側に櫻田フサ)

文責:東北大学史料館 加藤諭 准教授
参考文献『東北大学百年史』通史1(2007)

いつも、
はじまりの場所でありたい
-文系女子大生誕生から
100年-

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東北大学大学院 文学研究科・文学部